† 気まぐれ文庫 †
□宵闇の聖譚曲
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聖女ソフィア・セヴェールが死んでから、九つの十一月が過ぎていった。
教会は修復され、真実を知らない村人たちのなかに、あの事件を覚えているのはほんの一握りだ。
ロヴェルタ・セヴェールは母親そっくりに育ち、ソフィアの望み通り、十三歳になる今日までを健やかに過ごしていた。
そう、十三歳までは。
リタは朝目を覚まして、鏡に映る自分をじっと見つめた。
十三歳になったからと言って、急に何かが変わるわけではない。
しかし、リタは悪魔の忠告をちゃんと覚えていた。
最も不吉な魔法数字は、お前を危険に巻き込むだろう。
絶対に村の外に出るなという約束事を、リタは一度も破らずにいた。
好奇心が強く、無茶なことを好む傾向があることは認めるが、死に急ぐほど愚かではない。
リタは学校に行く準備をして、落ち着かない気分で下の居間に下りていった。
台所では、ちょうどギデオン・ヴィンセントが朝食を作っているところだった。
「おはようございます、神父さま」
リタは出来るだけ明るい口調で声をかけた。
この一年間を特に気をつけて過ごせばいいだけの話だ。
リタはそう思い込むことにして、元気よく椅子に座った。
「おはよう、リタ」
金髪の神父は振り返って微笑んだ。
「髪の毛がはねているよ」
「この寝ぐせ、何とかなんないかな」
リタは少しイライラして、自分の茶色い毛を引っぱった。
「ねえ、お母さんもくせ毛だった?」
ギデオンはちょっと手を止めて考えた。
「そうだなあ。そうだったかもしれない」
「本当?」
リタは機嫌を直した。
母親のことは父親同様何も覚えていないが、ソフィアはリタの憧れだった。
「ところで」
ヴィンセントが上着から拳銃を取り出し、リタに突きつけた。