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□魔法使いの憂鬱
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 気付くと、リリーは暗闇の中を歩いていた。

 外なのか、どこかの建物の中なのかもわからない。

 これが夢であることに気付くのに、そう時間はかからなかった。

 時々、リリーはこういう夢を見る。

夢の中で「これは夢だ」と気付くのはよくある話だし、リリーも特に気にかけていなかった。

 しかし、今回は違った。

「誰?」

 声をかけられて、リリーは飛び上がりそうになるくらい驚いた。

夢にしては、やけに生々しい。

 声のした方向を見ると、黒髪の、髪の短い女がこちらをじっと見つめていた。

「あなた、魔女なの?」

 よく見ると、女の髪は少し紫がかかっていた。

背の高い、高圧的な感じの女性だ。

「いいえ」

「でも、私の呼びかけに答えたわ」

 女がリリーの目の前に立った。

「そうね……貴方からは魔力を感じない。
たぶん、霊感が強いのね。
それで私の魔力に反応したんだわ」

 女は勝手に結論づけると、リリーを品定めするように観察した。

「私の名前はレティシア・リヴェットよ。
名前くらいは聞いたことがあるんじゃない?」

 女は尊大に尋ねたが、リリーは申し訳なさそうに首をひねった。

どうやら魔女らしいということはわかる。

しかし、一般人にとって、魔術師というのは同じ国に住んでいても別次元の人種だ。

魔術師の間でどんなに有名な人物がいても、一般の人間の耳には入ってこないのだ。

「ごめんなさい、ちょっとわからないわ」

 レティシアは胡散臭そうにリリーを見たが、すぐに納得したように肩をすくめた。

「そうよね、一般人は知らないわよね」

 リリーはそのニュアンスに軽い反発を覚えたが、何も言わなかった。

「まあいいわ。
あなたに頼みがあるの」

 明らかに、頼みではなく命令口調だ。

命令しなれた口調で、それがリリーの責務だというように。

「王宮に行って、リオン・バステードという少年を探してちょうだい。
彼は魔法使いで、私の弟子なの。
レティシア・リヴェットは≪征服者≫に捕らえられたと伝えて」

「ええと、≪征服者≫に?」

 コンキスタドール。

聞きなれない単語だった。

「あの、これって夢じゃないの?」

 リリーは基本的な疑問を口にした。

リヴェットがこれは駄目だという顔をする。

リリーはイライラし始めた。

出来の悪い生徒に教師が見せる顔とそっくりだ。

「ねえ、人に物を頼むのに、その態度ってないんじゃない?」

 リヴェットはちょっと驚いた顔になった。

リリーは怒らせたかもしれない、と不安になったが、そういう風でもなかった。

「ああ、そうよね。失礼。
つい部下と喋っている気分になっていたわ。
今、すごく重大な事件が起きてるのよ。
それなのに、第一責任者である私が捕らえられていて、しかも、この誘拐を誰も知らないってわけ。
イライラしててもおかしくないでしょ?」

 早口で一気に話し終わり、リヴェットはリリーに首をかしげた。

「わかった?
じゃ、よろしく」

 確かに優秀そうな雰囲気ではあるが、性格の面での欠点が多すぎる。

 リリーが何か言い返す前に、目の前が真っ暗になった。

 そして、次に目が覚めた時、リリーは自分のベッドの上で顔をしかめていた。

何か大変なことを任されたようだが、こちらにも都合というものがある。

 リリーは「レティシア・リヴェット」と「リオン・バステード」という名前を覚えているか確認し、とりあえず、放課後になってからまた考えることにした。

最近の小学生は忙しいのだ。





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