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□魔法使いの憂鬱
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リオン・バステードが師匠の異変を知らされたのは、自分の部屋でひとりトランプをしている時だった。
宮殿内にある自分の私室で、最近師匠から任された――正確に言うと、押しつけられた――謎の集団について、考えていたのだ。
「バステード様」
「はい」
扉がノックされたので、リオンは机に散らばっていたトランプを脇に押しやった。
「どうかされましたか?」
リオンは相手の顔を見て、静かに微笑んだ。
リオンはまだ十二歳で、一般の魔術師としてもかなりの若年であったが、その地位もまた前例のないほど高かった。
十一の時に最高の魔女レティシア・リヴェットにその能力を見染められ、彼女の弟子、そして、補佐官として大抜擢されたのだ。
それは一時他の全ての話題を押しのけ、嫉妬と噂を蔓延させた。
一つには、リヴェットが子供嫌いであることもあったからだ。
しかし、リオンは生来の温和な性格と魔術的な実績のおかげで、どうにか陰謀とは無縁の日常を確保してきたのだった。
部屋に入ってきた男はリオンにつられて顔を綻ばせたが、すぐに真面目な調子に戻った。
「リヴェット様と連絡がつかないのです」
「師匠と?」
リオンは腕時計に目をやった。
昼の二時。
いつものスケジュールなら、今は宮廷内の私室で書類に目を通している時間だ。
「今日はまだ会ってないけど、いつからですか?」
「昨日の夕方です。
その――≪征服者≫と名乗る者たちの件で連絡することがありまして」
「昨日の夕方……」
リヴェットの身に何かあったとは考えられない。
リオンは落ち着きなく自分の髪を梳いていたが、考え付くのはありきたりなことばかりだった。
「自宅にもいなかったんですか?」
「ええ。
使い魔をやったんですが、家には誰もいませんでした」
≪征服者≫について、何か掴んだのだろうか。
「少し、様子を見てみましょう」
リオンは腕を組み、何もない宙を険しい顔で見つめた。
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