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□魔法使いの憂鬱
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 そこが牢屋であろうと、自分が支配している城であろうと、レティシア・リヴェットの態度は変わらない。

 今は弟子を顎で使う代わりに、胸を張って、見張りに高級ワインを要求していた。

「安いのを買ってきたら承知しないわよ」

 リヴェットは見張りを睨みつけた。

背景が牢屋であることも、手首にかけられた手錠も、ほとんど効果はなかった。

何故かそれらはリヴェットの威厳を少しも損なわなかったし、実際的な機能――魔力を封じることにもあまり成功していなかった。

 うっかりリヴェットの射程圏内に入った見張りはことごとく焼け焦げをつけられ、≪征服者≫のメンバーは見張りの役をやりたがらなかった。

 しかし、その一つには罪悪感があった。

 このクーデタの一番の敵だったが、魔術師として、そして人間としても、レティシア・リヴェットは尊敬に足る人物であったからだ。

 高飛車ともとれるが、リヴェットの毅然とした態度はまぎれもなく気高さの表れだった。

 ワインの銘柄を書きとった見張りは、その文字を見て途方に暮れた。

「これは高すぎますよ」

「こんな所に一日中縛り付けてるんだから、何とかしなさいよ」

「結構」

 見張りの背後にヴィンセントが立った。

「そう言うと思って、ちゃんと用意してありますよ」

 ヴィンセントがワインとグラスを見せた。

リヴェットは一瞬、言うべき言葉に迷った。

あの優秀な弟子でさえ、ここまで気は利かない。

第一、出来るだけ困らせてやろうという目的があっさりと挫けてしまったことに、リヴェットは機嫌を損ねていた。

「一級品ですよ。
我儘な貴方にはぴったりのね」

「これのどこが我儘よ」

 リヴェットはグラスを受け取ったが、すぐに突き返した。

「随分くだらない真似をしてくれるわね」

「何が?」

「睡眠薬の色ぐらいわかるわよ」

「仕方ない」

 ヴィンセントはそれを口に含むと、リヴェットに口づけて無理やり飲ませた。

流石のリヴェットもその行動までは予測出来ず、ヴィンセントを押し返した瞬間に、飲み込んでしまった。

「よくも――」

 リヴェットの言葉が途切れた。

「どうされたんですか?」

 見張りが恐る恐る尋ねた。

「誰かがこの城を見つけ出した。
すぐに移動するよ」

 ヴィンセントはリヴェットの脇に手を入れて、抱き上げた。








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