BOOK 原作

□たった一言
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言葉なんていらない、なんてよく言うが

たまには言葉が必要なときだってある


だから、言えよ

ホラ、早く、俺の気持ちが変わる前に・・・








「あり?土方くんじゃん、ひさしぶりぃー」

いきつけの居酒屋で一人酒をしてると珍しい奴がやってきた


ソイツに声をかけると眉間にシワを寄せて目をそらされた


「おーい無視ですかコノヤロー」


でも知ってるぜ?ホントは俺に会えて嬉しいんだろ?


絶対、たぶん、いや、やっぱり絶対に俺が自惚れてるわけじゃない


現に、土方は店を出ずにいる。


「・・・お前としゃべるとせっかくの酒がまずくなる」


憎まれ口を叩きながらさりげなく俺の隣に座った


あーあ、頬が緩んでますよー


鬼の副長が形無しだな、オイ


「まずくなるどころかいつもの二割増しだわボケ」

「いや、こんなコトになるんだったら屯所で近藤さんと飲んだほうがましだったわ」

「んだと?!俺はゴリラ以下ですか?!」

「もうゴキブリ以下だな」

「ふざけっ・・・」



おーっと危ない


これじゃいつものパターンで殴り合いに発展しちまう


別にそれでもいいけど、そろそろこのむず痒い関係も終わりにしたい


ホントは土方になにかしらの行動を起こしてほしかったけど・・・あいつを待ったら何年かかるかわかんねぇし


出血大サービスだ!!!



「万事屋・・・?」


「・・・土方は、俺のこと・・・そんなに嫌い?」


ピシッ!!


おー、おもしれ

固まっちゃったよ、この人


「ねぇ・・・きらい?」

「き、らい・・・・・・・・・」










「・・・・・・なワケねぇだろーがあああああああああ!!!!!」


あ、壊れた


「親父!金、置いてくぞ!」


バンっと二人分の金をカウンターにたたき付け、俺の手を引いて立ち上がった


「なにすんだよ!いきなり!」

「お前が可愛いこと言うからだろ!!」

「可愛いってなんだよ!」


あらま、いっきにオラオラ土方くんになっちゃったよ

さっきまでのヘタレくんはどこへやら


「つか、どこ行くの?」

「・・・ちょっと、休憩でもしねぇか?」

「下心見え見えなんですけど」

「うるせぇ!」

「・・・土方って俺のこと好きなの?」


ピタッ

あれ?ここまできてまたヘタレ再来しちゃった?

あきらかに動揺してるよ








馬鹿、あほ、死ね

色んな罵倒は死ぬほど言ってきたのに

愛してる、好き、大好き

たくさんの愛の言葉はまだとうぶん聞けなそうだ



たった一言の愛の言葉

だけど俺達にとってはどんな復活の呪文より難しい





「す、す、す、好きなワケねーだろ!馬鹿!!」






いつ聞けるかわかんねーけど気長に待ってみようかな


俺の気持ちはなんだか全然変わりそうもないから


「早く聞かせろよ?ダーリン?」



たった一言
(俺の一言で土方がまたアワアワしたのは言うまでもない)










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