銀魂妄想庫
□僕の魔法が解ける前に
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「沖田くん、1人なの?多串くんと一緒じゃないんだ?」
土方さん…
そういえば何日も会っていない。
同じ屯所にいても俺は誰の面会も許可しない。ただでさえ吐血している時を過ごす部屋は菌で危ないのに面会なんてとんでもない。
俺は治らない病気にかかっているから。いわゆる感染病。
俺から人と接するのを拒否していた。
大切な人に同じ苦しみを味わってほしくないから。だから人と話すのは…久しぶりだった。
「土方さんは…マヨネーズでもすすってまさぁ」
「うげっ、あいつの味覚って本当に分からない…」
「俺には旦那の味覚も一生分からないですけどねぃ」
たわいもない話…
今日だけ許された俺の時間。
心地よくて、お茶に入った花びらも綺麗だと感じた。
そんな穏やかな空気を
俺の体が打ち破った。
いきなりの嗚咽感。口に鉄の味がジンワリと広がってくる。
(…や、ばい……)
「…え、…沖田くん?」
口に手を当て、苦しそうに震える沖田を見て銀時は手を差し伸べる。
「っ…触らないでくだせぇ!!」
旦那がピクと反応して動きを止める。
ぁあ、やっぱり今の俺にはもう人と関わることは許されないのか…結局は傷つけることしかできない。…長居は…だめだったか…
「……っすいやせん…ハァ…」
ようやく嗚咽感が消え
楽になって、旦那に謝罪した。
こうなる可能性があるのを分かっていたのに、安心しきっていた自分が悪い。
「いや、俺は大丈夫だけど…沖田君大丈夫?手、貸そうか?」
差し伸べられた手があまりにも優しすぎて、無意識にその手を頼ってしまうとこだった。
「……大丈夫ですぜっ!」
そう言って
心配そうな顔の旦那を安心させるようスクッと勢いよくその場に立つ。
勢いよく立ち上がったもの、体調がすぐれていない俺の体は順応せず、
ぐらりと
傾き、
「……っぁ?」
「……!!っお、きたく…っ」
体が地面に叩きつけられ…
たかと思われた。
頑なに目を瞑っていたら甘い香りが脳を刺激した。
その香りは自分が旦那に抱きしめられてるからだと気づくのに時間はいらなかった。
「……ぁ…旦那っ…すい、やせん…」
「はぁ…まったく!だから無理すんなっての〜。ビックリするでしょ!」
お礼を言って旦那から離れようとする。
が、腕がガッチリと組まれており抜け出せない。
「!?…ちょ、旦那!?離してくだ「や―だ。」
「はっ!?;」
まるで子供のようにだだをこねる。
そんな中で次第に焦りと不安が大きくなっていく。
”染ってしまう。”
大切な人を苦しませてしまう。
それは自分にとってもっとも辛いこと。
「…っだめ、ですって!!!!!!!!」
精一杯の力を込めて旦那を突き飛ばす。
離れることはできたが、それでも旦那はよろけることもなかった。
「…だめなんでさぁ…………俺、は病気だからっ…。」
もう泣きそうだった。
どうせ助からない命なら、この世に未練を残さず死にたかった。
なのに忘れかけてた…忘れようとしていた人の優しさや暖かさに再び触れてしまった。
旦那といたら…
もっと生きたいと願ってしまう。
それだけは避けたかった。侍として、覚悟を決めて死にたいから。
もう外に出るのはやめよう
何も言わない旦那を見て
もう会えない目の前の相手を見て
忘れないでおこうと思い
涙でかすむ瞳で一生懸命見つめる。
「…さようなら、でさぁ…旦那。」
旦那の俺を呼ぶ声には
振り返らないで…
「…っ、ぅ…はぁ、はぁ………」
甘味屋が見えなくなるとこまで走って立ち止まったら、
我慢していた涙がポロポロと零れ落ちた。
屯所までの道のりをトボトボと歩く。
風景はすべて歪んで見えた。
まだ
微かに
手が震えていた…
―――
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