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□新月の御遣い。
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何も無い空。
今日は、新月。
「う゛う゛…悪魔が風邪だなんて聞いた事がないだわさ…」
ベッドの中でもそもそと呟いているのはラミル。
何時もよりぼんやりした表情に赤い顔、熱い息。
どうやら、風邪を引いたらしい。
[新月の御遣い。]
「大丈夫ですか?ラミル」
「ん…へーきだわさ……ゴホッ」
心配そうに眉根を下げて、温かい飲み物でも作りましょうか。と台所に向かったラークを見送りながら、ラミルは小さく名を呼んだ。
「…ディアン」
「クュ?」
その声にしっかり反応を示して、ディアンがこちらに寄ってくる。
何時ものように人型を取らないのは、ディアンなりの気遣いなのだろう。
そんなディアンに微笑んで、ラミルは掠れた声で言葉を紡ぐ。
「マシェの所に行って、薬を…貰ってきて欲しいんだわさ」
「クュ!」
その言葉に頷くとディアンは部屋を出て行く。入れ違いになって入ってきたラークの如何したんですか?と言う問いには、玄関口で人型を取ったディアンが元気良く答えた。
「いってらっしゃ…ゴホゴホッ……う゛〜〜」
「ほらほら、いきなり大きな声を出そうとするからですよ。これでも飲んで暖まっていてください」
渡されたのは、蜂蜜たっぷりのホットレモネード。
ありがとう、と小さくつぶやいてラミルはそれを受け取った。
「マシェー、薬が欲しいんだけど…」
「お、ディアン。珍しいね、君が一人で此処に来るなんて。ラミルは?」
カラン、と音を立ててドアを開ければ、そこにいたのは頭や腕、足など、いたるところに包帯を巻いた少女。
この少女こそ、この街の薬屋、マシェである。
彼女の作る薬はどれも効果抜群で、魔法薬を作るのが苦手な魔女なども良く買いに来るのだが…彼女自身は生傷が耐えなかった。
今だって、ディアンの相手をしながら腕に包帯を巻いている。
「それが…ラミルが風邪引いちゃったんだ…薬、頂戴?」
「風邪…?!ラミルが?めっずらしいこともあるんだねぇ…分かった。任せといて♪」
そう云って奥に下がった彼女。
ディアンはそのままその場で薬が出来るのを待つ。
数分後。
いくつかの粉薬を持って、マシェはでてきた。
「ハイ、お待たせ。こっちの桃色のは食後、こっちの黄色いのは寝る前ね。間違えちゃ駄目だよ、ディアン」
「うん、ありがとう!」
「いえいえ、さっさと風邪治して遊びにおいでって言っといてよ」
「わかった!」
そんな会話を交わすと、ディアンは元の姿に戻り、薬の袋を口に銜えてラミルの待つ家へと自分が出せる最大のスピードで帰って行った。
マシェの薬はどんな薬を頼んでも大抵一回分しか処方されない。
その、訳は。
――次の日――
「完全復活だわさ!」
「ラミル、おはよう♪」
「おはようございますラミル。矢張りマシェの薬はよく効きますねぇ…」
朝。
朝と言っても、この世界はずっと日が昇ることはないので見た目は夜なのだが。
目を覚ましたラミルは身体を覆っていた気だるさも熱っぽさもこれっぽっちも残っていなくて、思い切り伸びをしながら起き上がった。
そんなラミルに嬉しそうに飛びつくディアンと、飛びつくまでは行かないが本当に嬉しそうに穏やかに微笑むラーク。
そんな二人に「おはよう」と返した。
薬屋、マシェ。
その薬は、どんなモノでも一日で直してしまう、素晴しい効き目を持っているとか。
――もっとも、此処の住民達の回復力が素晴しいのもあるのかもしれないけれど。
End.
オマケ(と言う名の後日談)
「ありがとうマシェ、おかげですっかり良くなっただわさ」
「おぉ!それは良かった♪いやぁ〜ラミルが風邪引くのなんて初めてだからちょっと調合に手間取っちゃったよ」
「ウチもビックリだわさ…。でも、マシェ。思うんだけど」
「ん?何??」
「あれだけよく効く薬を作れるんだから、自分の傷も直せば良いと思うんだけど」
「いやぁ…直してるんだけど、治るスピードに傷が出来るスピードが追いつく?追い越す?ともかくすぐに傷が出来るからもう面倒なんだよねぇ…」
「…怪我をしないように気をつけることが先決だわさね…」
「ごもっとも」
■後書■
ラミルさん風邪っ引き。の巻き。
本当はハロウィンまでに仕上げたかったんですが…うむむ…
マシェは新キャラ。
生傷の絶えない悪魔。
髪は赤、瞳はグリーンとブルー…まぁ所謂オッドアイってヤツです。
お兄さんがいるようなそうでもないような…(どっちだよ)
ちなみにこの家庭、何故か書けば書くほど ラーク+ディアン→ラミル になって行く…
ラミルは全く気付かない…なんだこの良くありそうなシチュエーション!(笑)
それでは、少しでも楽しんでいただけましたら幸いです♪
2007/11/01
まだ書いてないキャラが山ほど…あぅあぅ(涙)
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