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□#2 〜一日目〜
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ちらり、ひらり、ふわり。
まるで羽のように柔らかに、緩やかに降り積もる雪。
そんな中、高いビルの屋上に立つ、二つの黒い影があった。
「お、雪だな」
「雪は…嫌いだわ」
冷たい目で雪の降る町並みを睨みつける女に、男は緩く笑んだ。
「なら、その『嫌い』を仕事にぶつけろ、面白いことになりそうだ…」
「そう…ね。『雪の夜に大量自殺。一体彼らに何が起こったのか』なぁんて、次の日各メディアが湧くわね、きっと」
くすり、男の言葉に女は小さく笑んだ。
そして。
「いくぞ、氷夜(ひよ)」
「えぇ、黒桜(こおう)」
「…その名で呼ぶな……」
「ハイハイ、分かりましたよ、リーダー」
数回の会話を交わし、二つの影は、屋上から消えた。
「人が落ちたぞーーー!!!」
「救急車を呼べ!」
彼らが消えた後、町のあちらこちらで同じような悲鳴と叫び声が上がる。
その声に、満足げに笑ったのは、だぁれ?
#2 〜1日目〜
「あ、雪だぞ!紅葉(くれは)!」
「あぁ、そうだな、夏芽(なつめ)」
同じ町、違う場所。
降る雪を見て、一人の男がはしゃいだような声を上げる。
その言葉に頷いて、声を掛けられた青年は面倒そうに言葉を返す。
「ったく、相変わらずつれないなぁ、お前は」
「アンタがはしゃぎ過ぎなんだよ…」
疲れたように溜め息を吐く紅葉に、夏芽は「ガキらしくねぇ奴」と、苦く笑った。
仕事の下見に来ていた二人。
何かをするわけでもなく、町を歩いていたのだが。
「人が落ちたぞーーー!!!」
「救急車を呼べ!」
聞こえた声に、思わず足を止めて振り返った。
振り返る先には、人垣が出来ていて、どうやら自殺があったらしい。
それだけなら、特に気にするようなことではないのだ。
確かに紅葉や夏芽は人の死を司る『死神』ではあるが、自殺は彼らの管轄ではない。
寿命を見定める事が彼らの役目であって、寿命ではない自殺は、彼らの関与すべき所ではないのだ。
…本来、なら。
「ったく…これで一体何人目だ?」
「雪には自殺させたくなる魔力でもあるのか?」
遺体を運ぶ人間の呟きは、しっかりと二人の耳に届いた。
『何人目』彼らの耳には確かにそう聞こえた。つまり、これが初めてではなく、二、三人と言うわけでもないのだろう。
「オイ夏芽…もしかして…」
「あぁ、十中八九『黒』の仕業だろうな…本部に戻って報告するぞ、紅葉!」
「あ、オイちょっと待てよ夏芽!」
くるりと踵を返して、その場から離れようとする夏芽に、紅葉は一歩遅れて付いて行った。
「四季なら報告なんてするまでもねぇんじゃねぇのか?」
「あぁ、姫さんなら報告なんてしなくても分かってるだろ」
「だったら!」
どうして戻る必要があるのかと首を傾げる紅葉に、夏芽は真面目な表情を崩さずに告げる。
「姫さんじゃなくて、嬢ちゃんに報告に行くんだよ」
「…ゆきに?」
「そ。嬢ちゃんに、な」
ふぅん、と分かったようなそうでもないような返事を最後に、二人の姿は溶けて消えた。
雪が激しくなる。
寒さにコートを着込み、うつ向き気味に早足に歩く人々の目に、その一瞬は刻まれることはなかった。
End.
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