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◆『百鬼夜行‐巻ノ二‐』
◎サンプル
俺の職業は、情報屋だ。
万屋(よろずや)でもなければ、当然、退治師などでもない。
それなのに、
「あの…すみません…折原様のお宅は、此方にございましょうか…?」
何故か最近、どう見ても情報を求めている様には見えない様な人が、良く家に来る。
そして、皆一様に、こう口にするのだ。
「妖を、退治てくださいませ!」
……うん、だから、俺は退治師じゃないんだってば。
俺のもとに妖退治が舞い込む事は、実はそれほど珍しい事じゃない。
その理由は…まぁ、後に述べる事にするが、それにしても、ここ最近の依頼の数は半端な数じゃない気がする。
助手の波江さんにさえ、「貴方、退治師に転職したらどうなの?」と、呆れた様な目で見られる始末だ。
確かに、依頼が来れば受けるけど、さぁ…
「退治師様」
そう呼ぶことだけは、やめて欲しい。
「…自分は、一応情報屋なんですよ?」
視えるし、聴こえるけど、ね。
…とは、言わない。なんだかややこしくなりそうだしね。
さて、目の前の依頼人の話を聞こうか。
「それで…一体、何があったんですか?」
跳ねのけないあたり、俺って優しいよねぇ、と呟いたら、波江さんに可哀想な物を見るかのような目で見られたんだけど、一体どう云う事か聞いても良いかな?
【かごめうた】
◆ ◇ ◆
「……はぁ、」
話を聞き終えた俺の第一声は、これだった。
溜息の様な、感嘆符の様な、気の抜けた声。
しかし依頼人は、そんな俺の声に気にする様子も見せずに、俺の手を掴んで身を寄せる。
「ですから、どうか家(うち)の子を助けてやってくださいまし!」
必死な気持ちは分からなくもないけれど、まぁ、何ていうか…俺が言えるのはただ一つだけだ。
「他の退治師の所へ話を持っていかなくて良かったですね」
営業用の笑顔を張り付けながら呟いた俺に、彼女は何か勘違いをしたらしい、俺の手を握る力を、更に強めて言葉を続ける。
「お礼は何でも致しますから!」
そんな彼女に、俺は小さく溜息をついてから、笑顔を見せた。
「分かりました、お嬢さんの事は、自分に任せてください」
◆ ◇ ◆
「貴方、あんな大見栄を切って大丈夫なの?」
依頼人が帰った後、客人の使った湯飲みを片付けながら、波江が問う。
「大見栄?見栄何かじゃないさ。今回の犯人は、もう目星がついているからね」
波江の問いに不敵な笑みを零した臨也に、彼女は笑んだ。「あら」
「あら、そう」
それじゃぁ、今回の犯人は誰なのかしら?
問いかけてきた波江に、臨也は自分の湯呑に口をつける。
温くなってしまったお茶を嚥下して、少し困った様に、彼は笑った。
「今回の犯人は、カミサマさ。」
臨也の幼い頃が(ほんの少しだけ)垣間見える『かごめうた』他、
静雄の臨也に対する気持ちが(やっぱり少しだけ)垣間見える『産女』を収録しています。
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