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□夢。
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ねぇ。
わたしが、どれだけ。
この日をココロマチにしていたか。
あなたに、わかる?
夢。
「りょう!後ろ!!」
「え?――ッ!!」
飛び散った飛沫。
それは、自分のものではなくて。
「雅!!」
大切な、幼馴染の。
―――ハッ
「ゆ…夢……?」
良(まこと)は布団から勢い良く起き上がると、状況が飲み込めていないらしい、暫くぼんやりとしていた。
「りょうく〜ん!そろそろ行かないと学校遅刻しますよ〜?」
そんな良を現実に引き戻したのは、雅の声。
その言葉に枕元にあった時計を見れば、時刻は。
AM.8:00
「う…嘘だろ?!ヤバイ遅れる!!!」
良は慌てて仕度を済ませると、朝食も取らずに鞄をつかんで家を出た。
「おはようございます、りょう君」
「おはよう雅!」
「顔色が良くないけど…昨日ちゃんと寝た?」
「うぅん…何か夢見が悪くてな…」
ポツポツと他愛無いことを話しながら学校に向かう二人の足取りは、速い。
むしろすでに走っている状態だと言っても過言ではないだろう。
まぁ…そろそろチャイムがなる時間なので分からないでもないが。
チャイムが鳴る一分前、二人は何とか教室に着いた。
「よぉ来栖!今日は遅かったな」
「あぁ…ちょっと嫌な夢を見て…」
本当に、嫌な夢だった。
あって欲しくない、悪夢。
あんまり続くようだったら雅に見てもらおう。ぼんやりとそう思いながら、良は適当に声をかけて来た友に返事を返していた。
チャイムが鳴って、数分後、担任が教室に入ってくる。
朝の挨拶を交わし、簡単な話を一つ二つした後で、小さく咳払い、そして。
「あー、今日は転校生を紹介する」
途端、ざわめき立つクラス。
中には指笛を拭くなどして、無駄に盛り上がっている生徒もいる。
担任の『入ってきなさい』と言う言葉に頷いて、一歩、教室に足を踏み入れたのは、桃色。
男子から歓声が上がる。
「はじめまして!黄昏 愛(たそがれ まなみ)です♪好きなことは眠ることです。皆さん、仲良くしてくださいね!」
ぺこり、と勢い良く頭を下げた愛は、にっこりと微笑む。
そして、お決まりの質問タイムが始まった。
「黄昏さんの好きな食べ物はなんですか?」
「ん〜。柘榴かなっ♪」
「前は何処に住んでたの?」
「えぇっと…此処から三駅くらい離れた所だよ☆」
「嫌いなタイプってどんなの?」
「来栖良」
質問に、まさか人名が挙がるとは思わなかったらしい。
質問した男子は一瞬戸惑ったような顔を見せる。
それもそうだろう。転校初日の愛が、嫌いなタイプでこのクラスの男子―しかも全校的に人気のある良を―名指ししたのだから。
女子達は、それに一瞬怒った様な表情を見せたが、すぐに思考を切り替える。
『良君が嫌いなら、ライバルには絶対ならないではないか。』と。
「それじゃぁ、好きなタイプは?」
気を取り直した女子が尋ねれば、これまた驚くような返事が返ってくる。
「雅お姉さまですvv」
好きなタイプは?と聞かれて、同姓の、しかもこのクラスの生徒―さらに言うなれば全校から嫌われている雅である―を名指しするとは。
今までとは違う意味でのざわめきがクラスに流れた。
「雅」
良が小声で雅を呼ぶ。雅は前を向いたまま返事を返す。
「なんですか?りょう君」
「アイツ…」
「うん、この間の夢魔だろうねぇ」
そういえば一匹直前で逃げ出したのがいたっけ。と、のんびり呟く雅に良は脱力したようにもう一度雅を呼ぶ。
「雅」
「ん?」
「お前…暢気すぎない?」
「そうかなぁ?」
小首を傾げた雅に、『間違いなくな』と良は返して、席を立つ。
騒がしい教室内、椅子を引く音も、立ち歩く姿も、さして目立ちはしなかった。
愛に近付いて向かい合う。
睨みあう二人。
良が、口を開いた。
「どうして此処に来た。目的は何だ」
「目的?そんなの決まってるじゃない」
ニィ…と、愛は口角を持ち上げる。
真っ直ぐに、迷うことなく雅の前まで愛は足を進めた。
「雅お姉さまのそばに居るためよ!」
そういって、雅に抱きつく。
驚いた雅が身体を引こうとした為に、イスごと後ろに倒れこんでしまった。
盛大な音を立ててひっくり返った二人に、教室内は一気に静けさを取り戻す。
「雅!」
「いたた…ちょ…離れて欲しいのだけど…」
「イヤです!お姉さまが愛の事を側においてくださるというまではここから離れません!」
一種の脅迫である。
このままの状態でいられては、授業もまともに受けられない。
ハァ、と短く溜め息を付いて、分かりました。と雅は頷いたのだった。
「…絶対に祓ってやる」
ボソリと呟いた良の言葉に、愛は嘲る様に笑う。良にしか見えないように。
そして、すれ違いざまに答えるのだ。
「やれるものならやってみなさいよ」
アンタなんかに祓われたりしないわ。
……と。
さぁ、宣戦布告よ。
私はずっとこの日を待っていたの。
わざわざ人間なんかの姿を真似て、この世界にやってきた。
それもこれも全部、お姉さまの為。
あんたなんかに負けないわ。
勝負しましょう?来栖 良。
絶対に、負けたりなんかしないんだから。
雅お姉様のとなりは、私のものよ!
End.
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