□獏。
1ページ/1ページ




夢には、2種類ございます。
良い夢と、悪い夢。

良い夢は生気を滾らす力となり、夢を追う糧となる。
悪い夢は全てを散らし、無気力の世界へと誘う。

悪い夢を見た朝は、目覚めも大変よろしくありません。
悩まずに、閉じ込めずに、そんな夢を見た際には。
夢深神宮(ゆめみじんぐう)へ、お越しください。

あなたの悪夢、祓わせていただきます。




「おはよう雅、宿題やってきたか?」
「おはようございます。一応はやってきたよ」

ポンッと肩を叩かれて、雅は丁寧に頭を下げてから質問に答えた。
声をかけて来たのは来栖 良(くるす まこと)。お向かいに住んでいる、雅のクラスメイト兼幼馴染だ。

「たのむっ見せてくれ」
「良いけど・・・合ってるかどうかは知らないよ?」

それでも良い!と、頼み込んでくる良は、決して頭が悪いわけではない。
むしろ優秀な方で、宿題をしてこないのは珍しい。恐らくは、前の晩、睡眠時間を削って“仕事”をしていたのだろう。

「りょうくんのことだから、教科書見ればすぐ分かりそうだけどなぁ」
「いや、今回は本気でヤバイ、授業始まったと同時に当てられる。雅の事だから教科書にも答え書いてあるんだろ?教科書の方でいいからかえてくれ」
「わかった」

仲よさげに話している二人を、他の生徒は面白く無さそうに見ている。
それはある意味当然と言うべきか。良は運動だってできるし、人当たりも良くて・・・一言で言えば、人気があるのだ。男女問わず。
一方雅は、勉強はできるが運動は得意ではない。人当たりは良いのだが・・・容姿が平均よりも劣っているのが原因か、あまり人気は無い。

いや、それが原因とは言いきれない。校内の人気者である良を『りょうくん』とあだ名で呼び、尚且つ四六時中一緒。これが主な原因だろう。そのため、女生徒にはかなり嫌われている。

雅本人は全く気にしていないが。

「オイ、神宮。おまえ、自分の顔鏡で見た事あるのかよ」
「ありますよ、勿論」

「アンタみたいのが良君と一緒にいるなんてありえないわ!」
「それじゃぁなるべく一緒にいないように努力するよ」

「神宮、おまえに『雅』何て名前似合わねぇんじゃねぇの」
「そういわれても、名前をつけたのは祖母なので」

何を言われてもこんな調子でサラリとかわしてしまう。
・・・最も、かわさなくても良が追い払うのだが。

「おまえ、何言ってんだよ!雅は可愛いんだぞ!」
「来栖、おまえ・・・視力平気か?」

「雅!何て事言うんだよ。俺が一緒にいたいからくっ付いてるのに!」
「りょうくん・・・それは・・・ストーカーみたいだよ?」

「雅の名前は雅にこそふさわしい!俺が雅、って名前だったら可笑しいだろ?!」
「いや、来栖さぁ・・・おまえって何か・・・天然だよな?」

と、まぁこんな感じに。
いつでもこんな調子の二人だから、密かに二人は付き合ってるんじゃないかと言う噂が流れていたりするのだが・・・それはそれ。
二人がこうなのは、二人の家業に関係が有る。




時は深夜の丑三つ時。夢深神宮へおいでませ。

悪夢に悩む人々が、ほら、今宵もやってくる。

「りょう、準備は良いですか?」
「勿論。雅も・・・準備万端だな」
「当然です」

ニコリと、二人は笑みをかわす。
昼間の雰囲気とは全く違う。良に何時ものふざけた雰囲気は一切無いし、雅だって。

いや、雅は違うどころの問題ではなかった、『神宮 雅』と名乗らなければ、誰も雅と気づけないだろう。
普段は後ろでおさげにされた長い髪は綺麗に結い上げられ、分厚いレンズの眼鏡は外された。
赤いワンピースの上に羽織られた白い上着、巫女服を簡略化したような格好が、似合っている。

良も同じく、着物のような格好をして腰に挿すのは日本刀。

まるで今から戦いにでも行くような。

いや、実際に戦いに行くのだ。夢の中で悪さをする、悪夢を祓いに。

悪夢を祓う、夢深神宮12代目当主神宮 雅。及び、その補佐官、来栖 良。
これが、二人の本来の家業。

夢の中に入り、悪夢の原因を見つけたら、後は簡単、祓うだけ。

「りょう、後ろです!」
「おうよ!任しときなっ」

大きく剣をふるって悪夢を薙ぎ払ったら、雅が悪夢によって傷付いた夢を修復してゆく。
その様は、優雅に舞を舞うようで。この光景を見ていると、『雅』と言う名前はぴったりだと、そう思えるのだ。

「修繕完了・・・っと。さて、明日も学校がありますからね。早く戻らないと」
「そうだな。寝坊したら起こしてくれよ?雅」
「ふふ、気が向いたら・・・ね」

ふわりと笑って、雅は夢からでる。
その後を追って、良も。

夢から覚めた依頼人は、心なしかすっきりした面持ちで二人に礼を言うと帰っていった。




次の日。

何とかギリギリに起きる事は出来て、HRまでには間に合った良。
しかし、雅がまだ来ていない。

“仕事”があっても、次の日に学校を遅刻するなんてことは今まで無かったから、良は少し不安な気持ちになった。

「まさか・・・体調崩した・・・とか?悪夢に憑かれた・・・とか?」

心配はそのうち、ドンドンエスカレートして、良の気分を沈めていく。
その時だ。

派手な音を立てて、教室のドアが開け放たれた。

「す、すみません!遅れました!!」

そこに居た人物に、教室内のほとんどの者が固まった。
その心中は綺麗に揃っている。

『『『・・・誰?』』』

「雅!」

良の声に、雅を凝視するクラスメイト及び担任。

そして、一瞬の沈黙の後。

『『『う・・・うそだ〜〜〜?!!』』』

眼鏡を外して、髪をといた状態の雅に、学校中に響き渡るほどの絶叫が降りかかったのだった。

End.



□後書□


落書きから出来上がった代物。
本当は雅一人だけが悪夢を祓う巫女でした。
一体どうして来栖が出てきたんだか。

もっと戦いを充実させたかった・・・
来栖にせっかく日本刀を持たせたんだし・・・(笑)
雅は本当はとっても美人さんです。
ただし、隠していますが・・・運動もそこそこは出来ます。

設定は結構溢れてました。
扇を使って舞い、風(鎌鼬)を起こして悪夢を祓う、とか。

水泳の授業の時にスタイルのいい雅に皆が絶叫するとか(笑)


それでは、楽しんでいただけたら・・・幸いです♪

2007/05/27

戻る





[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ