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□歪んだ童話
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【赤ずきん】
今よりは昔のお話。
真っ赤な頭巾をかぶった少女がおりました。
少女は母親と二人暮らし。
父親はおらず、母親の内職で二人は生活していました。
「もうこんな生活・・・つかれたわ・・・」
ある日、母親は溜め息を付いてこんなことを呟きます。
そして、ふと思い立ちました。
「そうだわ!」
「赤ずきん、御遣いを頼まれてくれるかしら?」
「え〜・・・」
「頼まれてくれるわよね?」
「・・・ハイ」
母親に脅され・・・いやいや、頼まれて、片手にバスケットを持って御遣いです。
バスケットの中身は、葡萄酒に仏蘭西パン、そして甘〜い林檎が数個。
「母さんはお祖母ちゃんになんか恨みでもあるのかしら?」
しかし彼女は知っていました。
母親の企みを。
バスケットの、本当の中身を。
中身を見ながらそう呟く彼女の目は、冷たい表情をしていました。
(母さんがしようとしてるのは多分・・・ってか絶対犯罪よね。止める?でも・・・止めてどうなるわけでもない・・・か)
気にしてもしょうがないと、赤ずきんは再び歩き出します。
「やぁお譲さん。何処へ行くんだい?」
「お祖母ちゃんの処へお遣いに」
声を掛けられて、赤ずきんは答えました。
暫くして、ん?と、赤ずきんは振り向きます。そこには・・・
「狼?」
狼が居ました。
「お遣いとはご苦労だね。すぐそこに花畑があるんだけど、お婆さんに摘んで行ったらどうだい?」
「あ、それは良いかもしれない」
(最後に美しい物を見るのも冥土の土産って奴よね)
と、なんだか可笑しなことを考えながら、狼に引かれるままに花畑へ向かいました。
「う・・・わぁ・・・」
目の前に広がる色とりどりの花たちに、赤ずきんは思わず目を輝かせます。
そして、花を優しく摘み取りました。
その、優しげな表情を見て、
ドキン――
狼の鼓動が高鳴ります。
そして、狼は花を一輪手折ると、赤ずきんに差し出します。
「え?」
「結婚してください!」
突然の告白。どうやら優しい花への微笑みに狼は恋をしたようでした。
「お断りします」
そういって、十分な花束を抱えて立ち上がった赤ずきんに、なおも狼は話しかけます。
「この先に綺麗な湖があるんだけど・・・」
「この木に成る実は美味しいんだよ」
まるでストーカーです。
プツンッ
判りやすい音がして、赤ずきんは切れました。
「私にナンパなんざ10年早い!」
ドカッ・・・ガシャンッ
葡萄酒の瓶で思い切り殴り倒してしまいました。
「あ、葡萄酒一本ダメにしちゃった。母さんに怒られるかなぁ・・・」
「ぐあぁぁああ!!!」
「ま、良いか。正当防衛よね」
「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ!!!」
悶え苦しんでいる狼の存在を無視して、赤ずきんは祖母の家へと向かったのでした。
葡萄酒の中身は硫酸で、仏蘭西パンには鉄骨が。
甘〜い林檎は手榴弾。
包む布には剃刀を添えて。
母親の狙いは祖母の遺産。
可愛い可愛い赤ずきん。
自分の生活の為に、殺人のお手伝い。
だけど狼のせいで計画が台無し。
おばあさんの命の恩人は、猟師ではなく、鋭い牙を持った狼だったのでした。
End.
後書
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