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はぁっはぁっはぁっ
(遠くへ、此処より出来るだけ遠くへっ!)
真っ黒なフード付きのコートを纏い、町を駆ける一人の少女。
一見目立ちそうなその格好は、しかし今降り注いでいる雨のために、周りと同化していた。
(・・・救いの雨・・・ね)
走りながら少女は思う。
そんな余裕はないのだが、何も考えなければ、それはそれで辛い事を思い出してしまうから。
(父さん、母さん、フィル・・・)
家族のことを思えば、足の動きが早くなる。
逃げなくては、なんとしても。
かつて、この世界は酷い貧困に陥った。
その貧困に対応すべく、新たな人種が生まれた。それが『プランツ』と呼ばれる人種。
彼等はその体に葉緑素の集まりである核を持ち、植物と同じように光合成をして過してきた。
彼等は貧困の時代に生き延び、そして、現在もなお、生き継いで居る。
そして、あの時代とは違う苦痛が、今彼等を襲っている。
彼等の体に生まれつき埋め込まれている核―。
それは、美しい翠の輝きを放つ。その美しさは、宝石の比ではない。
その美しい核を手に入れようと、コレクターが現れた。
コレクターには、プランツそのものを求めるコレクターと、核だけを集めるコレクターの2種が居る。
前者ならば・・・前者ならば、まだ良い。
例え奴隷のように扱われたとしても、生きているのだ。強い意志を持てば、切り抜けるチャンスもあるだろう。
しかし後者ならば・・・プランツは殺されてしまう。悲痛な悲鳴と涙を零して。
そして、悲しいかな。死ぬような怪我を負ったときのほうが、体を再生させようとする核の働きによって核は最も美しく輝くのだ。
少女の家族に起きた事態は後者であった。
ある日突然、笑顔が恐怖に変わる事を、誰が想像しただろう。
学校から帰ってきた少女が目にしたものは、血塗れた部屋、家族。そして・・・家族を殺したであろう男。
「う・・・ぁ・・・」
言葉も出ずただ立ち尽くす彼女の前で、男は家族の核を抉り取って行く。
「やめてぇぇぇ!!」
ドンッ
思わず叫んだ少女は、男に体当たりし、男が落とした家族の核を抱えて、走った。
コレクターから、家族を護る為に。
サァーーーー
走っているうちに雨が降り出す。
まるで、彼女を隠すように。
ハァッハァッ・・・
彼女は足を止めることなく走り続ける。
「あぅっ!」
ドシャッ
小石に足を取られ、彼女は転んでしまった。
(立たなくては、逃げなくては・・・)
頭で理解していても体は限界で・・・彼女はそのまま、意識を失った。
つづく...
□中記□
連載・・・にする予定はサラサラなかったんですが・・・
可笑しいなぁ・・・
締めは考えてないので、恐らくぐだんぐだんな終わり方になるかと。
小ネタに書いた『植物人間』が基です。
少女の名前が最後まで出てこない・・・(苦笑)
06.09・18
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