.
□サンプル。
4ページ/11ページ
【布団の中の小説家】-サンプル-
***
蒼(ブルー)と橙(オレンジ)が混ざって、深く、なる――
誰が誰だか分からない、誰そ彼(たそがれ)時。
そんな時間に、彼女はやってくる。
ふわりと、軽やかに。
人ではない彼女が、人と、触れ合う為に――
***
夢魅(ゆめみ)レム作:『優しい死神』より
布団の中の小説家
「ねぇねぇ、この本もう読んだ?」
駅前の割と大きな書店。
とあるコーナーで数人の女学生が話をしていた。
「読んだ読んだ!夢魅レム先生の新作、『優しい死神』でしょ!?」
一冊の手をとって、その学生達は楽しそうに話す。
興奮でもしているのだろうか。声はだんだんと大きくなり、少し離れた場所でも、充分聞き取れるような大きさになっていた。
彼女達はさらに続ける。
「それにしても、夢魅先生ってどんな人なんだろう…」
「ねー」と、その言葉に数人が頷いた。
「ファンタジーからミステリー、長編短編なんでも書けて、どれも凄く読みやすいし…きっと、すっごく素敵な人なんだろうなぁ…」
ホゥ…と、夢見がちに溜め息を付いている彼女達の会話を、偶然耳にした渡は、口元に小さく笑みを浮かべる。
そして、こっそりと思うのだ。
「君達の想像とは違うだろうけど、彼女はとても素敵な方だよ」
と。
渡はどんどん『夢魅レム』のイメージを作り上げていく彼女達に小さく笑みをこぼしながら、目当ての本を買うと、店を出た。
***
自家用車を走らせて、辿り着いたのは、こぢんまりとした家。
クリーム色を基準とした、可愛らしい家だ。
指定の場所に車を止めると、渡はゆっくりとインターホンを押す。
短いベルの音が2,3度響いた。
『はい』
「あ、石垣です」
聞こえてきた声に渡は名を名乗る。それに声の主は「あぁ」と納得したような声を上げ、通話が途絶えた。
それから、暫くもしない内にドアが開かれる。
「いらっしゃいませ、渡さん」
にこりと穏やかに笑むその人に、「お邪魔します」と告げてから、渡は尋ねる。
「先生は起きてるかい?聖さん」
その言葉に、人差し指を唇に当てて、聖は笑んだ。
「まだ眠っていますよ。今日はお休みの日ですから」
「起こさないようにしてくださいね?」と続けた聖に、渡は苦く笑う。
「起きてもらえるとありがたいんだけどなぁ…」
いつの間に着いたのか、彼の目の前には大きなベッド。
そして、そこで穏やかな寝息を立てる女姓。
この、現在進行形で眠っている彼女こそが、今巷で話題の小説家、夢魅レム――本名、布団(ぬのうち) 好(このみ)である。
「明日にすればよかったかな」
「そうですね、明日でしたら好様は一日起きていらっしゃいますし」
バリバリと頭を掻きながら苦く笑った渡に、聖は穏やかな笑みのままで答えた。
好はとにかく良く眠る。
眠ってしまえば、2日は起きて来ない。
それでどうして小説家などになれるのか。
それは、彼女がある意味天才だからである。
「んみゅ…かつら…るっててんふみゅー」
「みるてっくあうえかいしあふぅゆぃ」
時折眠る彼女の口から飛び出してくる解読不能の暗号のような寝言。
それを聞いて、聖は渡に告げた。
「どうやら次回作はサスペンスになりそうですよ」と。
結構前から構想だけは練ってあったもの。
キャラ単体で気に入っているのでいつか小噺的な部屋をつくりたい…とか考えてたり(笑)
※ブラウザバックでお願いします。
+