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□サンプル。
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【逢いに行くよ、約束するよ。だから泣かないで。】-サンプル-

***F

人は弱いもの。
脆くて、儚い。
何百何千という途方も無い年月を過す自分たちとは、似ても似つかない。
そんな事、わかりきったこと。

…否。分かったつもりでいて、解ってはいなかった。
ただ、知っていただけ。

嗚呼、本当に人は弱いものだ。


そして、それでも。

自分たちとは違う強さを持っている。

***S


いつかは離れる時が来ることは、知っていた。
妖と人。
寿命だって、住む世界だって、違うだろ?

だけど。

こんな形で、こんなに早く、別れることになるとは…思わなかった。

予想外も予想外。

恐いし、苦しいし、辛い。
それでも。

お前がそんな顔をしている方が、もっと苦しい。


逢いに行くよ、
約束するよ。
だから泣かないで。



理由がなんだったのかなんて、オレは知らない。
ただ、体に重い痛みが走って、それから、目の前が空で埋め尽くされた、それだけ。

慌てたような声が聞こえて、目の前に、銀が散らばった。

「兄ちゃん」

呼ぶ声は何時もの声と違ってて、なんだかとても辛そうな顔を、していたから、

不壊?

訊ねようとして口にしたはずの言葉は、一つも音にならなくて、その代わりに大きく咽こんだ。

喉の奥から異物がこみ上げてくる感覚。
だけど吐く、とかそう云う感覚じゃない。

ナニカが吐き出された。
ナニカ、までは見えなかったけど、不壊の顔がさらに歪んだ気がして、苦しくなる。

「ふえ…」
「兄ちゃん…」

今度はきちんと音が出た。
そのことに一安心。…ちょっと掠れたのが気にいらねぇけど。

「兄ちゃん、大丈夫かい?」

不壊の言葉に、笑い返すことが精一杯。
大丈夫、なんて言えない状況なのは、オレが一番知っている。

この体に何が起こっているかは知らないけれど、どんどん体が冷えて行く感覚と、じわじわと押し寄せてくる恐怖。

きっと、もうすぐ死んで逝くんだろうと云う事は、少し考えれば分かること。
死んだこと無いけど、こう云うのって案外分るもんなんだな。

自分のもんじゃないみたいに重たい腕を何とか持ち上げて、不壊の髪を引っ張る。
そんな顔、してんじゃねぇよ。

***

このげぇむから、妖どもを解放してくれるかもしれない、貴重な子ども。
兄ちゃんをこのげぇむに誘ったのは、そんな自分本位な理由だった。

初めは、面白い、変わった子ども。
そのうち、その子どもの行動一つ一つに気を取られるようになって、いつの間にか大切だと思えるようになって。

個魔という括りを越えて、護ってやりたい、そう思った。

思って、いたのに。

それは唐突。

げぇむが終わって、妖が解放されて。
いつの間にか俺は撃盤から切り離されていた。

一夏だけだったはずの兄ちゃんの傍にいられる期間が延びたと、ただ単純に喜ぶ自分に苦笑いを零したのは、まだ遠くない過去。
夏休みを利用した兄ちゃんの旅に付き合って、いろんな所を回って。

まだ後ろを振り返って見上げながら話す癖が抜けない兄ちゃんに前を向けと注意をしながら、歩いていたのだ。あの時は。
傍から見て何もいないところに話しかける兄ちゃんは、とても奇妙なものに見えるだろうから。

「ほら、前を見て歩くんだな、兄ちゃん」
「ちぇー、わかったよ」

まだ話し途中なのに、とむくれて見せる兄ちゃんは、げぇむの時とまったく変わっちゃいない。
それに小さく笑みを作りながら、のんびりと兄ちゃんの後ろを歩いていたのだが。

不意に、誰かの叫びが聞こえた。
足を止めて、振り返る。…もっとも、そこには誰もいなかったが。

聞き覚えのある幼い声。
必死な様子のその声は、兄ちゃんの名前を叫んでいる。

――逃げて…!

確かにその声はそう言った。

どういうことかと、勢い良く兄ちゃんのほうを振りかえって、俺は目を疑った。

どうやら先ほどの叫びは兄ちゃんには聞こえていなかったらしい。
のんびりと歩いている兄ちゃんに向かって飛んで行く、黒の塊。

それが何なのかを考えるより先に、反射的に体を動かした。

一歩、その足は届かなかったけれど。

黒い塊が、兄ちゃんを貫いた。
何が起こったか理解していないらしい、きょとん、とした表情のままで、兄ちゃんの体は倒れてゆく。

「っ!」

その体を受け止めて、兄ちゃんの顔を覗き込む。

「兄ちゃん」

呼べば、視線がこちらを向いた。
泣きそうに眉根を寄せて、苦しいのか?

唇が、何か言おうと動く。
だが、それは叶わなかったらしい。

「ゴホッ!ゴホゴホゴホッ…ッ!カハッ」

酷く咳き込んで、音にならなかった。
言葉の変わりに口から出たのは、血液。

その事に、事態はかなり深刻だと、俺は息を呑む。

「ふえ…」
「兄ちゃん…」

呼ばれた名前に答えれば、満足げに口の端を持ち上げる兄ちゃん。
何がそんなに満足なのか、俺にはわからなかったが、取り敢えず、声をかけた。

「大丈夫かい?兄ちゃん」

聞かなくたってわかっている。
大丈夫なはずが無い。
あの塊は、間違いなく兄ちゃんの心臓を打ち抜いたのだ。
胸からの出血は無い。(当然だ、アレは物質ではないのだから)
それでも、吐き出された血の量は相当で、助かる見込みはきっと無い。

緩く笑む兄ちゃんは、それを分っているのだろうか。

大丈夫とは、答えてくれなかった。

(嘘でもいいから、『大丈夫に決まってるだろ?』て、笑ってくれよ兄ちゃん。信じることは出来ないけど、安心はするから)




一応不壊三。
コンセプトは「ジンクスを打ち破れ!」と、言うわけで死にネタもどきです。
もどきと言えるか謎ですが(苦笑)

シリアスを目指したのに全くうるりともこない(なんてこったい)

一応救いのある死にネタ…の、つもり。

それから、今回やたら後書が長いです(いらねぇ)

ところで、泉の平気がどこまでか、それは泉にも分りません(えー)


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