sh'novel


□Present
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十二月二十五日。
一年は三百六十日も有るけれど、其の中でも特に大切にされている日。
家族と過ごすにしても。
友達と過ごすにしても。
そして、恋人と過ごすのならば尚更。
子供も大人も皆。
そう、誰もが其の日を待ちわびている。
其の日に近付くにつれて街は華やぎ、人ははしゃぎ、立ち並ぶ家々は色鮮やかに彩られる。
光り輝くイルミネーション。
飾り立てられた大きなツリー。
全てが其の日の為であり、全てが其の日の為に有る。
赤と緑の特別な日。
素敵な事が詰まっていて、綺麗な物で溢れている。
…けれど。
僕の心は哀しみに沈んでいた。
僕の心は哀しみで満ちていた。
大切な人と過ごす、大切な日。
一番大事なものが無い。
無くてはならないものが欠けている。
去年はちゃんと有ったもの。
去年は此の腕に有ったもの。
どうして今年は無いのだろう。
どうして一人で居るのだろう。
此の腕に有った温もり。
此の腕に有った微笑み。
顔を擽る柔らかな髪。
背に回された温かな手。
僕を見上げる優しい眼差し。
君の香り。
君の声。
そして、君の…音。
抱き締めれば感じた鼓動。
肌を通して聞こえた心音。
今はもう無い。
何処にも…無い。
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