第壱話
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 真夏の太陽の日差しと、明るい人の声で賑わう江戸の町。

 その中をせっせと歩く、華奢で小柄な少女の姿……

 腰まで伸びた真っ直ぐな黒髪は風に靡いて艶々と輝き、切り揃えられた前髪の真下にある大粒の瞳の美しさを一層際立てている。

 あの日、母を亡くして泣きじゃくっていた少女・雛菊は文久2年、無事に15歳の夏を迎えていた。

 女中として試衛館に住み込んで、三年目。

 料理の腕も上がったし、掃除も細かいところまで行き届くようになった。

 手際よく洗濯もこなせるし、縫い物だってお手の物。

 そして、移り住んだばかりの頃は迷子になってばかりいたこの辺りも、今では裏道までしっかりと把握している。

 女中としては一人前。

 しかし、母に似てきたとはいえ童顔な顔立ちや素直な性格、本人も複雑な思いを抱いている未発達な胸元や背丈のせいか……

 外見的にはまだまだ幼い印象が抜けず、女性として異性と接する機会には欠ける日々を送っていたのだった。






 第壱話
 運命の人は居候?






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