第参話
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 平助が食客入りした翌日の朝、雛菊の気持ちはとても晴れ晴れとしていた。

 朝食の支度を済ませて表に出ると、その気持ちと同様、江戸の空も高く、青く澄み渡っている。

 雛菊はその蒼碧の天井に向かって、大きく背伸びをした。

 脱力の瞬間の心地よさと共に思い出される、いつかの近藤の言葉……





『人と出会うということはなぁ、ヒナちゃん……

 その人の人生の分だけ、自分の世界が広がるということなんだよ。

 そして共に歩むということは、共に成長し、お互いの世界を広げ合っていくということ。

 だからわしは、人との出会いを……

 この道場に身を寄せてくれる仲間達を、大事にしていきたいと思っとるんだ』





 平助との出会いは、自分の世界をどれだけ広げてくれるだろう?

 平助が前に身を置いていたという玄武館のことは、剣術関係に疎い雛菊にはよく分からない。

 しかし、平助がこれまでの食客達とは違った雰囲気を持ち合わせているのは確かなこと。

 きっとまだ自分が知らない、未知の世界の話を聞かせて貰えるだろう……



 そんな期待を胸に、雛菊は食客部屋へと向かうのだった。

 朝食の支度の次に必ず、決まってしなければならない仕事の為に……






 第参話
 ひょんなことから
 急接近




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