第八話
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 今日の夕飯を思い描きながら、二人で買った食材達。

 それを平助が抱え、その隣を雛菊が歩く。

 あの恋人ごっこから暫く経った今でも、夕飯の買い物は二人のちょっとした逢い引きになっていた。

 とはいえ、お互いに照れてしまって二人の仲の進行具合は相変わらず。

 そして……

 そんな二人を試衛館の前で待ち構えるこの男もまた、相変わらずだった。





「藤堂……

 貴様またヒナと出掛けやがったな……!?」


 二人の姿を確認するなりズカズカと詰め寄ってくる歳三に、平助はゲッと顔を歪める。

 その鬼の形相を前に若干逃げ腰になりつつ、平助は「まぁまぁ」と苦笑していた。


「いいじゃないですかぁ、出掛けるくらい。

 俺達一応、好き合ってるんですから」

「ケッ! なぁにが好きあってるだ。

 ヒナはなぁ、まだガキだから見てくれしかイイ男の判断基準がねぇんだよっ」


 引き下がるどころか突っかかってくる歳三に、平助もじわじわと冷静さを欠いていく。


「ちょっ……なんですかそれ!

 それじゃまるで俺、他に良いとこ無いみたいじゃないですか!?」

「ああ!?

 テメェやっぱり、見てくれは自負してんのか!?」

「ち、違いますよっ!

 ただまぁ、人付き合いも円滑に進める為にも、気は遣ってますけど……」

「そうか!

 お前、そうやって初なフリして女誑し込んでんだな!?」

「だから、どうしてそうなるんですか!?

 俺が言いたいのは、そういう人付き合いじゃなくてっ……」


 言い争いはどんどん激しさを増し、流石に近所の目もあるので雛菊はやんわりと口を挟んだ。


「ねぇ、二人ともぉ〜……

 もうその辺にしてよぉ」


 しかし……

 一度熱くなってしまった二人の耳に、そんな弱々しい忠告が届くはずもない。


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