□第九話
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気がつけば、恋仲としてこれといった進展もないまま、季節は秋を跨ぎ冬に向かっている。
稽古を終えた男達が思い思いの場所へ散って行く中、雛菊はある人の姿を探していた。
「あ、いた! 平助さぁん!」
弾む足取りで駆け寄れば、嬉しそうに迎えてくれる彼の優しい腕。
その腕の中で、雛菊は突然こんなことを訊ねた。
「ねぇ、平助さん。
多摩に一緒にいかない?」
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第九話
ヒナの里帰り
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「……え? 多摩に?」
唐突な提案に、平助はただ目を丸くするばかり。
雛菊は「そ、多摩!」と元気に笑うと、事の次第を彼に説明した。
試衛館では定期的に、持ち回りのような形で多摩にある道場の方へ誰かしらが出稽古に行く。
その担当が明日は歳三と総司ということで、雛菊も里帰りを兼ねて同行することになったのだ。
これが、雛菊にとって、平助と出逢ってからは初の里帰りとなる。
だから今回はどうしても、平助についてきてほしかったのだ。