□
御話六
2ページ/15ページ
翌朝、支度を済ませた小春が銀と共に食卓に向かうと、そこに義両親の姿は見当たらなかった。
二人して首を傾げていると、二人分の朝食を運んできた給仕の女性がその行方を教えてくれる。
「蛍泉水様と雪月花様は、今朝方早くに笠間の一族のお屋敷へと向かわれました。
実は、昨晩遅く、笠間の一族に待望のお世継ぎがご誕生になったそうでして……
本日は午後からそちらの祝典も執り行われますので、お二人にもお目覚め次第、向かっていただきたいと言付かっております」
お世継ぎ……
その言葉を聞いて、小春の脳裏に浮かび上がるのは、テレビや写真で何度か見た愛くるしい子狐の姿。
小春の頬が思わず緩めば、銀までつられてへラリと笑う。
そんな様子を見て、給仕の女性は心苦しそうに「それから……」と付け加えた。
「銀時雨様に、もう一つお伝えせねばならないことがございまして。
実は、この度の祝典での御祝辞に関して、蛍泉水様は全て銀時雨様にお任せするおつもりだそうで……」
それを聞いた銀の顔色からは、一瞬で笑顔が消え去っていく。
彼はどっと溜息をつくと、
「親父め、面倒ごと押しつけおったな……」
と怒りの形相で掌を握りしめた。