御話八
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「着いたで」


 銀の言葉で、薄紅色の煙が晴れていく。

 しかし、そこにはいつものように美しい日本庭園や、立派な屋敷といったものは存在しなかった。

 黄土色の空、埃を孕んだ乾いた風……

 途方もなく広がる砂漠には果てがなく、遥か彼方に砂煙でぼやけた地平線がゆらゆら揺れる。

 そして、小春達の目の前には、まるでそれがその世界の中心かのように……

 巨大な岩の塊が重苦しく横たわっていた。





「ここはな……

 狐都の中でも一部の、有力な狐だけが知っとる特殊な空間なんや。

 ここには、その岩みたいな"檻"だけしか存在しない」


「檻……?」


 銀が不可解な発言をするので、小春は再度、目の前の岩をじっくりと凝視してみる。

 檻……というからには、中に何かが閉じ込められているのだろうか。

 しかし、ゴツゴツとした岩肌をどんなに追いかけても、入り口のようなものはおろか、空気を取り入れることが出来そうな隙間さえ見つけることは出来なかった。


「檻言うても、普通の檻とは少し違うねんけどな。

 この岩は、どういう仕組みか内側の者の神力を強制的に抑え込む力があるらしいんや。

 つまり、この中に放り込めば……どんなに優秀な狐でも、ある程度の力を要する危険な術は一切使えなくなる。

 その為この岩は、狐都に災いをもたらしかねない狐を拘束しておくための檻として代々使用されるようになったんや」


 まさか、狐都にそんなものが必要だったなんて。

 神の存在がより具体的で身近に存在するこの世界は、いつだって平和で、皆の心が穏やかだった。

 それは先入観かもしれないけれど……悪事を企む者なんて言われても、今ひとつしっくりこないのだ。


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