CHRONO TRIGGER

□プロローグ
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 トルース町はガルディア城の城下町にあたる。北東のリーネ広場のあたりから民家が始まり、最も賑わいを見せる中心部を抜け、ガルディアの森の傍までがほぼ町の全景だ。
 森は城のある高台を囲うように広がり、内部には侵入者避けの魔物が放たれている。そこを抜けた先の台地に城がそびえていてそれがトルースから見て北西の方角にあたるから、町は都合東西に長く広がっていると言えた。
 トルース町のある大陸からゼナンの橋を渡った南の大陸には、パレポリ町がある。このパレポリとトルースとを結ぶ定期船の汽笛を、マールはガルディアの森の中で聞いていた。木々に遮られている上に距離もあるためあまりはっきりとは聞くことができない。それでもこのときに限らず、風に乗ってときおり耳に届く汽笛の音はそのたびに彼女の胸を躍らせた。
 背後から人の声と足音がして彼女は傍の茂みに身を隠す。青い制服姿の近衛兵をやり過ごすと、そっと顔だけ覗かせた。細かい葉を無数につけた低木は、小動物にとっては都合のいい寝床だ。道を曲がる後ろ姿をその目にとらえて再度身を隠すと、もういい加減大丈夫だと思ったところでゆっくりと森の中へ後ずさった。
 城下町にあたるのにトルースと城の間に距離があるのは、その立地によるのかもしれないし森が邪魔をしているのかもしれないし、あるいはそもそもは町のほうが早くに存在していたのかもしれない。けれどそれは現代の土地を眺めていれば判然とするというようなことではなかった。そこに住む人々の生まれるよりずっと以前から、大地も森も存在するのだ。ガルディアの森もまたマールの物心つくずっと以前から、城を守り続けていた。
 森には人の歩くための道が敷かれている。そこを素直に進むのは城を抜け出してきた彼女にとって、賢明とはいえなかった。とはいえ何の導もなしにやみくもに進むことが賢いというわけでもない。それほど森は大きく深いのだ。
 彼女の今進んでいる獣道はトルースの民家の裏手へ抜けていた。ほかにも森の内にはそうした道がいくつもある。もちろんその全てをたびたび城を抜け出す彼女がつけたわけではない。ほとんどは小さな友人の手によるものだった。
 森から外へ出る手前でマールは背後を振り返る。木の陰から顔をのぞかせたマモへ笑みを向けた。毛むくじゃらの小さくて臆病な魔物は照れ隠しするように耳を震わせ、心持ち口角をつりあげて笑顔に似た表情を作る。彼女は友人の振る手に応えるとボウガンを入れた筒を肩にかけなおし、足取り軽く町の中へと踏み出していった。
 森のさざめきから離れると今度は町の賑わいが体を包み込む。リーネ広場からは鐘の音が響いていた。

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