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□共に
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―――夢を見ていた。



ココ何処だろ?

辺りを見渡す。

何処か森のような場所だった。

どうやら俺一人で、あいつらは居ないみたいだ。

まあ、夢だし。

たまには気楽に散歩でもしてみようかと歩き始めた時。

少し先から複数の足音が聞こえた。

―――――敵か?

気配を殺して様子を伺うと、音が近付いて来た。

怒鳴り声も聞こえる。

どうやら誰かを追っているようだ。



『捕まえたぞ、餓鬼』

『手間かけさせやがって』



殴られ、倒れる音。

酷い暴行。

さっき「餓鬼」って聞こえた――って事は相手は子供で。

助けなきゃ、と駆け出してすぐにあるものに気付く。

男達の隙間から見える、

―――金色。

肌がざわりと粟立つ。

嫌な予感。

知っている気配。

気付いた時には男達に向かって駆け出していた。





「止めろよ!」

一人の男に拳を振り上げ、吹き飛ばした―――筈なのに。

拳は男を素通りした。

手応えがない。

「あれ?」

肩を掴んでも掴めない。

「夢だから?」

幽霊みたいなものなのか?と考えてるうちに、目の前では暴行がエスカレートしていた。



『おい、そっち持て』

『暴れんじゃねえよ』



二人に押さえ付けられて、抵抗する姿が見えた。

――――…三蔵。

まだ幼い、俺の知らない三蔵。

必死になって暴れている。

助けなきゃ。

男を剥がそうとしても、身体を通り抜ける。

掴めない。

止められない。

三蔵は男達に黒の法衣を乱され、男のモノを押し付けられた。

傷付けられ。

啼かされ。

受け入れさせられた。

目の前で起こる、信じられない光景。



―――ああ、そっか。

これは夢じゃない。

三蔵の過去なんだ…。



悔しくて、涙が出た。



◇◇◇◇◇



乱暴に目を擦ると、男達は消えていた。

三蔵が一人、倒れている。

近寄って傍に座り、そっと手を伸ばした。

触れないけど。

幼い傷だらけの頬に残る男の残骸を消したかった。

二度三度と撫でると、うっすらと紫暗が開いた。

少しぼんやりした後、急に起き上がり、辛そうに呻いた。

地面に付いた手を何度も叩き付ける。

振り上げる度に血が流れても三蔵は止めなかった。

やがて手を下ろして地面に崩れ落ちる。

小さな身体を震わせ、嗚咽を漏らす。



初めて聞く三蔵の泣き声は、

とても痛かった。




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