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□日課
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小坊主が床掃除を終えて退出してすぐ、風呂上がりの悟空が勢いよく飛び込んで来た。
「さんぞ、風呂入った!」
「ちゃんと洗ったのかよ?」
「洗ったって!あのな、今日は綺麗な花畑見付けたんだ。今度の休みに一緒に行こーな」
ニコッと笑いながら髪をガシガシ乱暴に拭いてタオルを外すと、三蔵が何かに気付いたように悟空の長い後ろ髪を手に取った。
「三蔵?」
「髪どうした」
「ああ、コレ?木に引っ掛かって取れねーからちぎって来ちゃった」
悟空の長い毛先は、ほんの少しだけ無惨な切り口になっていた。
よく見ないと気付かない程度なのに、三蔵は意外と細かい所が目敏い。
「だから邪魔だろうから切っちまえよ」
「それは絶対嫌!」
切られて堪るかとばからに髪を取り返す。
何度言っても悟空は髪を切ろうとしなかった。
今回も無駄を承知で言ってみたが、やはり切るつもりはないらしい。
仕方ねぇ、と呟いて三蔵は悟空を呼び寄せる。
「何?」
「ここに立って後ろ向け」
「こう?」
クルッと三蔵に背中を向けて立つと、引き出しを開ける音がした。
「三蔵?」
「絶対動くなよ」
櫛で髪を梳かれる感触がして、その後シャキンと鋏が鳴った。
三蔵が髪切ってくれてる…。
悟空は嬉しくて、動きたいのを我慢してその心地良い空間を味わった。
執務室には暫く鋏の音だけが聞こえていたが、10分程して音が鳴り止む。
「ま、こんなもんか」
「終わった?」
三蔵が鋏を置いたのが見えたので尋ねると、返事は否だった。
「まだ動くな」
三蔵は再び引き出しを開けて何かを取り出した。
髪切る以外、何があんだろ…?
疑問に思いながら先程と同じように立つと、再度櫛で髪を梳かれ…三蔵の手で一つに纏められる。
くるくると巻き付けられ、ギュッと縛られる感覚。
気付くと後ろに大きな長い尻尾が出来ていた。
「もういいぞ」
三蔵の許可が下りたのでそっと後頭に手をやると、綺麗に髪が結わえられていた。
「これならいくらか引っ掛けなくて済むだろ。取るんじゃねぇぞ」
「ありがと、三蔵!」
悟空は触ってみたり、ぴょんぴょん飛び跳ねてみたり、嬉しそうに動き回っていた。
「明日もコレやって!」
「……気が向いたらな」
翌日から三蔵の日課が一つ増えたのである。
End
2010.10.4
悟空は自分であんなに綺麗に結わえないだろうと思って…。