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□不意打ち
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―――…ガウンッ!
辺りに銃声が響いた。
三蔵は呼吸を整えながら空の薬莢を地面に落とし、新たな銃弾を詰めていく。
周りに視線を走らせると、敵はあと7…いや8人いる。
一度で仕留めるには弾が足りない。
―――まあ、コイツで殴ればいいか。
些か乱暴な結論を出して装填すると同時に、どんっ、と背中に重みが伸し掛かった。
振り向かなくても気付く気配に、嗅ぎ慣れた異なる煙草の匂い。
じゃら、と鎖の音と共に、いつもの軽い口調が背後から紡がれた。
「三蔵サマはまだ終わんねえの?」
「煩え、あとアレだけだ」
「まだ結局残ってんじゃん。お年を召すと体力無いのかね」
「―――死ぬか?」
「ホントの事だろ?アンタ今日誕生日だし」
息切れもせず普段と変わらない声に、一瞬の間を置いてから漸く言われた内容に気付く。
「………そういやあ」
「忘れてたのかよ。八戒が今日は必ず街に着くってとばしてたのによ」
「俺が知るか」
「まあ早いトコ片付けちまえよ。じゃないと夜のお楽しみがなくなっちまうしな」
くくっと笑う背中が揺れ、あからさまな内容に思わず脚を蹴飛ばした。
「痛ッ!」
「ならアレはお前がやれ」
「ったく、物臭なんだからあ。そんなに夜の為に体力温存した……いえ、何でも」
紅い後頭部に銃口を押し付けたが、武器を持つ手を挙げて形だけの降参をする悟浄に舌打ちしながらも銃を下ろした。
そんなにのんびりとしていられない。
銃を構えて走り出そうとする腕を捉えて、悟浄は細い身体を引き寄せた。
睨みつけて来る紫の瞳に苦笑しながら、金糸に隠れた耳に囁きを落とす。
一瞬驚きで見開いた紫暗を再びきつく眇めると、三蔵はふいっと顔を背けて走り出した。
三蔵に気付いた敵の攻撃より早く銃弾を撃ち込みながら、頭は無意識に先程の言葉を繰り返している。
―――こんな時に、こんな所で、言う事じゃねえだろッ!
半ば八つ当たり気味に敵を倒す三蔵は、仄かに目許が赤かった。
不意打ちで口説くように「愛してるぜ」と囁く悟浄に、後程制裁を加えようと。
胸の鼓動をさりげなく無視して、三蔵は敵に向かって銃弾を放った。
End
2011.11.29
先に謝っときます。短くてすみません!祝ってなくてすみません!
ただ単にツンデレが書きたかっただけなんです…。
ちなみに三ちゃんは恥ずかしくて八つ当たりしてるだけです(笑)
それを悟浄は遠くから見てて「可愛いヤツ」とか言ってるに違いない。