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□temptation-another ver.
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「はい、三ちゃん」
「一応聞いてやる。コレは何だ」
「女物の浴衣」
「で、コレをどうしろと?」
「勿論着るのは三ちゃん。で、俺とデートね♪」
「死ねッ!」
部屋に一発の銃声が轟いた。
「てめえっ、何で浴衣を渡しただけで発砲するんだよ!」
「だから何で女物なんだっ!」
「男物なんてつまんねーじゃん」
「まだ分からんか…」
三蔵は銃口を悟浄の額に当て、低い声で呟いた。
「俺は男なんだよ。女物なんて持って来るんじゃねえ」
「いいえ、三蔵」
横から八戒がにっこりと笑う。
それはもう、にこにこと――背筋に何やら冷たいモノを感じる程に。
「男四人ではつまらないと以前言ったじゃないですか?ですから…ね♪」
ね♪じゃねえよっ、と思っても三蔵に勝ち目がない事は明らかだった。
この男に口で勝てる訳がない。
「一行の華である貴方に…はい、コレ」
悟浄が手にしていた物を押し付けられ、洗面所に押し込められる。
呆然したまま目の前を見ると、怒りでほんのり赤くなった頬がより一層女顔を強調している……ように見える。
鏡の中の自分を睨んだ。
この垂れ目が悪ィのか?
色素が薄い所為か?
肌の色か?
総てを引っくるめて女顔は今更どうにもならないんだから、この手にあるコレもどうにもならないのだろう。
―――何で俺ばっかり。
理不尽さを更なる怒りに変換して、三蔵は洗面台の扉を思い切り蹴飛ばした。