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□隔たり
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―――いつの間にか成長していた事に突然気付く。
例えば、体当たりしてくる小柄だった身体が重くなっていたり。
見下ろしていた目線が随分上になっていたり。
俺の嫌いな緑の草が乗った料理をさりげなく片付けていたり。
一緒に居過ぎて気付かない事を、ある日突然気付かされて―――言いようのないモノが心を占める。
成長の喜びとか。
親離れの安心とか。
そんな当たり前の感情を軽く吹っ飛ばす、巨大なモノ―――それは。
喪失への絶望だ。
◇◇◇◇◇
稀に八戒から出る話題がある。
それは旅が終わった後の未来予想図だ。
予想というより予定というべきか……喫茶店経営の話を時々聞かされる。
この面子で茶店を開き、ついでに家庭菜園もやるという。
俺としては「冗談じゃねえ、そんな先までてめえらとつるみたくねえ」と考えた所で、ふと違和感が沸き起こる。
あいつらは元々ただの知り合いだってだけだが。
―――では、悟空は?
拾ってからは、仕方なく手元に置いていた。
ずっと傍に居るつもりなんてなかった筈なのに、拾ってからの6年…7年近くを共に過ごすようになって、この存在が隣に居る事は至極当然となった。
ちょろちょろと纏わり付くだけだった煩い小猿が、いつの間にか大人びた目でキスを仕掛けて来るようになり。
抱き締められる腕が力強くなり。
上背のある俺を軽々と抱き上げたり。
本当に、いつの間にか………一人の男に成長していた。
庇護が必要な、誰かに頼らなければ生きていけない子供ではない。
それならば、俺はもう。
必要ねえじゃねぇか。
旅が終われば、悟空はきっと。
俺の元から旅立つだろう。
その時、俺は………。