リクエスト
□御礼
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《53》
「ほい、さんぞ」
買ったばかりのカートンをテーブルの上に投げると、三蔵は新聞から目を離す事なく「ああ」と一言だけ返事をした。
いや、分かってるよ。
コイツが礼言うなんて有り得ねえ……つーか気持ち悪ィどころの話じゃねえけど。
でもよ、雨の中をパシられてやった上に、濡れないようシャツの下に入れて持って来たこの気遣いをよ。
もうちっとこう―――
「ジロジロ見てんじゃねえよ」
雨の日はご機嫌真っ逆さまな三蔵サマは、やはり今日も麗しくないらしい。
ああ、何で選りに選ってこんな日に同室なんだ……。
「―――――だ」
「え?」
表には出せない為に心の内でブチブチ文句を言っていたら、三蔵が零した言葉を聞きそびれた。
「だから、なに溜息ついてんだって言ったんだよ。耄碌河童」
「あ、のなあ……」
普段から毒舌なのに、雨天は3割増に酷い。
「もういい」
大袈裟に溜息を吐くとベッドに腰掛け、新しいパッケージを開ける。
一本を口に銜え火を点けようとして……視界の片隅が動いた。
三蔵がこちらに向かって歩いて来る様子をぼんやりと眺めながら、
おおっ、殺るってか?
と、内心で銃弾の餌食から逃れる準備をしていたが、実際は目の前でぴたりと三蔵が止まったと同時に、俺の視界は反転した。
「うおっ!」
思わず情けない声を上げてベッドに倒れると、覆いかぶさるように三蔵がのしかかって来た。