流石にこの時期の野宿は厳しい。
勿論、外で寝るなんて一日たりとも御免だが、この澄んだ空気は嫌いではなかった。
「寒ィな…」
冷えた手を袂に差し入れ、愛煙を口にする。
深く煙を吸い、少し上を向いて吐き出した先には―――満天の星空。
これを見て、綺麗だと騒いでいた連中を思い出す。
同意を求められたが、いつも通りに素っ気なく返してやった。
そんな感情はとうの昔に失ってしまったから――星空は、単に方向を確認する目印でしかなかった。
10年以上前の放浪から、ずっとそう思って来た。
ただの、点だ。
ぼんやりと眺めながら、ふうっと細く煙を吐いた時。
その点が一つ、流れ落ちた。
一瞬で見失った星に思わず苦笑する。
『何で願い事しねーんだよ!』と、脳裏で叫けばれたからだ。
そんな星に願うなんて馬鹿げた事、出来る訳がない。
……出来やしないが、一つだけ思う事はある。
この星空の向こうに、間もなく嵐がやって来る。
抗いきれない大きな嵐に、それでも立ち向かうしかなく――まるで自殺行為だと己を嘲笑いたくなるが。
不思議と不安はなかった。
理由は分かっている。
こうして羽根を休める場所を見付けたからだ。
だから、また前へ進める。
録に吸わず灰となった煙草を地面に落とし、再び夜空を仰ぎ見ると――淡い光を放つ丸い月が静かに見守っていた。
三蔵は口の端を僅かに吊り上げ、その場をそっと後にした。
2013.1.1