長編

□百合3
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こんこん、


「・・・お茶をお持ちしました、」


珍しくユウ様が飲み物を所望したから、部屋まで持ってきたのに返事がない。
・・・仕事に集中しているからかな。


「・・・・・・失礼します、」



「ふざけんな!!!!」



入った途端、ユウ様の怒声と机を叩く大きな音。


・・・それから少し経ってから、ガシャンという硝子が割れる音。


そこで初めて、俺が持ってきたカップを落としてしまったんだと気がついた。



「ぁ・・・っす、すみません・・・」


俺の馬鹿。
何やってるんだろう。

こんな時に失敗するなんて。


自己嫌悪を起こしながら、急いで足下に散らばる硝子を拾い上げる。




その時俺はかなり動揺していたらしく、手が震えて上手く拾えなかった。


何回も落として、何回も拾っていくうちに指も切れて、
そのことでまた動揺して、また切って。



さっきの声は、きっと電話の向こうの取引先に向けたものだろう。


そう分かっていても、俺の動揺は修まらない。





ただ、
ユウ様に怒られるのを恐れていた。



ユウ様が怖いからじゃない。



何故かその時は、


ユウ様の信頼を失うのが怖くて




・・・否、


ただ純粋に、ユウ様に怒られたくなかった。








「ラビ、」

いきなり名前を呼ばれて、勝手に肩が跳ねる。


ユウ様は、知らない間に隣にいた。
でも、俺は怖くて顔を上げられない。


ゆっくり膝をついた彼女は、忙しなく動く俺の手を止めた。
赤くなってしまった俺の指をそっと撫でながら、


「もういい、やらせるから。」



って言った。

今まで聴いたことのない、優しい声。



俺が恐る恐る見上げると、
柔らかく抱き寄せられた。


「…怒ったりしないから泣くな。」


そう言って、彼女は小さく笑った。

俺はいつの間にか泣いていたらしい。
濡れた頬を、ユウ様の指が撫ぜる。

…直接伝わる暖かさで余計涙があふれてきて、
それに戸惑ったのか、一生懸命目尻を拭ってくれた。


「……ごめんなさい…」


俺が掠れた声で言うと、返事の代わりにぎゅってしてくれた。















…この日から、俺の中で何かが変わった。



何でもないことなのに、ユウ様に褒められると凄く嬉しくなる。


四六時中ずっと彼女のことを考えてる。


何故か、胸が苦しくなる。




今までこんな事、無かったのに。








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