小説
□音のない森
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人は誰でも、「これは夢だ」と見ていて解る夢を見ることがある、という話を聞いたことがある。
ならば、オレが見た夢もそのひとつなのだろうと思う。
「…ここは…」
気付いた時、オレは深い森の中にいた。
周囲には乳白色の濃い霧がかかっており、かろうじて木立ちが並んでいることがわかる程度の見通ししか利かない。
ふと上を見上げると、鬱蒼とした木の葉の切れ間から覗くのは、恐ろしいほど巨大な満月。それにより、此処が今『夜』であることを知る。
立ち止まっていても埒があかないと、オレは歩き出した。まとわりつくような霧がオレの足取りに合わせてゆっくりと動き、道をあける。
僅かな視界の中でオレは自分がこの森の中を縫うように走る細い小道に立ち、そしてその道に沿って歩いていることに気が付いた。
そうして、どのくらい歩いただろうか。
暗闇と濃霧の中で時間の感覚を失いぼんやりとしはじめていたが、不意にいままでとは違うものが目に飛込んできてオレははっとして立ち止まった。