小説

□first
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「それじゃ、ありがとうございましたぁー!」

「ああ、ごめんね、こんな夜遅くに配達してもらっちゃって」

「いいんすよ!これからもウチをよろしくお願いしますね」

「もちろんだよ。もう遅いから、気を付けて帰りなよ?天国くん。お母さんにもよろしくね」

「了解しゃ〜したぁ!まいどありぃ」



『猿野酒店』は、親父が出ていった後母さんがオレを育てるかたわら一生懸命やっていた大切な店だ。

オレが中学に上がってからは学校以外の時間の配達はオレがするようになり、母子二人三脚で店をやってきた。


オレが高校に入学し野球部に入ってからは帰宅時間の都合で配達が少し遅れるようになったが、それでも笑って待っていてくれるくらい、長い付き合いの常連さんがほとんどだ。

配達途中に「天国くん」と声を掛けられることも少なくない。






今は常連の小料理屋の板前さんが暖簾分けをしたお弟子さんが開いた小さな居酒屋さんにビールを2ケース届けた帰りだ。


本当は朝のうちに母さんが20ケースも届けていたのだけれど、そこは本日ニューオープンのお店の嬉しさで、9時には既に半分無くなっていた。


というわけで部活が終わり帰ってきたオレが愛チャリにビールケースを積んで追加分を配達に来たのだ。
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