小説
□ヴォイス
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―――昔から、誰かに呼ばれている…
そんな根拠のない感覚を覚えることがあった。
出逢うべき誰かが、どこかに居るような気がしていた。
「寒いと思ったら、雪か…」
窓を開けて空を見上げ、冥は呟いた。
凍るような寒さの中、日も落ちて暗い夜空のどこからか、白い雪の粒が音もなく舞い落ちてくる。
窓の外に手を伸ばしその一粒を受け止めた冥の掌の上で、白い天の欠片は透明な天の涙へと姿を変えてしまう。
流れ込む外気の寒さにぶるり、と身を震わせた冥は窓を閉めようとしたが、不意にその手を止め、もう一度空を見上げた。
誰かがこの寒空の下震えている―――直感的にそう思った。
何故そんな事を…と思うのに、居てもたっても居られなくなり冥は椅子に無造作にかけてあったデニムの上着を分厚いシャツの上から羽織った。
受験生だというのに、こんな夜中にという両親の小言は軽くスルーして、うっすら積もり始めた雪を見て買ったばかりの雪用の革ブーツを取り出して履くと、冥は暗い夜の闇に消えていった。
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