ぬらりひょんの孫 短編 弐

□●心鼓
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「俺と別れろ」


急なことで頭がついていかなく、まるで夢の中に迷い込んでしまっていて、自分では何もできずに、ただ見ている夢が覚めるのを待つだけの世界

自分では何もできずにいる


時間だけが流れていく

待っている


私は次の言葉を・・・


でも、それは叶わなかった

私の期待している言葉をくれない


「こいつは別に頼んでいるわけじゃない。だから、お前の言葉なんか期待してない」


そう言って、去る彼に、私は何もできなかった

いや、『何もできなかった』ではないと思う、この場合は

だから、訂正すると、『何もしなかった』というのが正しい



私だけが夢に置いていけぼりなのだ








私は歩く

帰路を歩く


景色は私とは反対の方向へと流れて行き、

空は予想できない方向へ雲を連れて行ってしまい、

私を独りにさせる


同じ景色を望めない

関係も

一緒




先ほどの景色を思い出そうとするように、今まで竜二と付き合っていたことのことを思い出してみた

何となくと言った感じじゃないと、泣きそうだから、そのぐらいの意識で思い出すのが丁度いい



噓吐きだった・・・

さっきの言葉も嘘だったらどんなによかったのだろう



すぐに驚かせてくる




一番、驚いたのは

そうだ・・・あの時のころかな?




『俺は、早世する・・・』


早世・・・?

あまり使われない言葉に、私はどの言葉だろうと考え込むが、それをさせないかのように、急に考えるのをやめさせられてしまう


私を後ろから抱きしめる彼の腕は、怯えているように震えていて、それに耐えるように強く抱きしめてくるのだ

不安げに後ろを振り返ってみれば、彼は声を殺す様にして、笑うのを押さえていた

でも、やっぱり漏れた声は泣いているみたいに見えたのは、私だけだったのかな?


だけど、顔を上げる彼の顔は意地悪気な笑みを漏らしていた

思い違いだったのかな?

そうだよね、竜二が泣くなんて・・・・ありえないよね?


自分に言い聞かせて、ホッと肩を落とした





『お前は本当に馬鹿だな』

彼曰く、自分の妹の次に、私は馬鹿らしい



ムッとしてしまったが、これは馬鹿にされたことに対してではなく、一種の嫉妬に似たものみたいだった


でも、次にムッとした理由は、冗談でも早く死んじゃうなんて言って欲しくはなかったことに対してだ



そう言ってみれば、竜二は目を細めた


『嘘を吐くとき、人の鼓動には僅かな乱れが生じるもんだ』

そう言って、竜二は確かめるようにして、自分の胸に手を置く


竜二の鼓動は、見ている私の方からすると、全く分からなかったけど、竜二を見ていた私の心臓は、嘘を吐いているわけでもないのに、早鐘のように高鳴っていた







私は何か忘れている・・・



確かめなくてはいけないのに・・・


あ、そっか


思い出せてよかった



私は来た道を振り返った

私に戻る様に、催促でもしているのか、道が開けて見えた



竜二の名を呟くが先か、走り出すのが先か・・・・






私は乱れた呼吸と心臓を整えて、ドアの前で一呼吸してから、目の前の重いドアを開けた


案の定、私よりも先に屋上に出たはずの、竜二は学校の教室に残って、机の上に座って窓を眺めていた


ということは、私が走って学校に戻ってきたことは、見ていたから知っていたのだと思う

だけど、教室に入ってきた私に不審にも思わなかったのか、こっちを向かない


「失せろ」


低く冷静だけど、声色には威嚇の色が滲んでいて、正直いつもの何倍も怖い


竜二


「聞こえてなかったのか?俺の前から今すぐ失せろ」


竜二の前に立てば、目障りだとばかりに、壁に押さえつけられてしまう

壁に張り付いた私を確認すると、彼は私に手を触れないままではあるが、沈黙で押さえつけてくる


窓があいていたのか、風に揺れるカーテンが彼の顔を隠してしまってよく見えない



竜二・・・・・

人を傷つける嘘は言わないって言ってたのに

酷いよ・・・



「理由か?」


女はすぐに聞きたがるとでもいうように、眉をひそめる彼

私はきっと泣きそうな顔をしていたのだと思う



竜二が言葉を放つ前に、私は竜二の胸に両手を添えるように置く



とくん、とくん―――・・・・・・



噓吐き



「俺がお前のこと・・・・好きだからだ」



とっくん・・・



わからない


わからない


私の心臓の音か

竜二の心臓の音だったのか


直に耳に押し当てられた、竜二の胸の鼓動は脈打っていた


強く抱きしめられて、ますますわからなくなる


別れろ?

好き?


どっちが嘘?








2011*12*21
*-*-*-*-*
あとがき

お待たせいたしましたー!
里奈様からのリクエスト(竜二・恋人・切甘)です。

私は比較的に、最初会話文から始まるものや、効果音を入れる小説は苦手なのですが、今回はその両方を入れてみました!そして、前代未聞(おそらく当サイトのみ)であろう、夢主視点ではあるものの、最初から最後まで喋らせませんでした。いじめてません、作品の雰囲気からしてですw
竜二の早世のお話をこちらに持ってきました!
羽衣狐の呪いが解けたため、こちらの方ではもう問題がなくなったんですよね・・・、おそらく。

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