東京喰種 Colos Lie
□2話:橙色の目覚め
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こんなに清々しい朝を迎えたのは久しぶり・・・
目覚まし時計のけたたましいアラームに邪魔をされることなく、自分のタイミングで起きられたという素晴らしさと、欠伸を噛み締めながら見た目覚まし時計の針の位置に私は絶句した
しまった・・・!!!
とてもとても、後悔・・・・
なんで起こしてくれないんですか、ハイセさん!!
ハイセさんの姿もない上に、日が既に傾いている時間になって、慌てて飛び起きた
今日が休みだったからいいものの・・・
時間がもったいない気がして、悔やんでも悔やみきれない
丸一日寝ていたと言っても過言ではないだろう・・・
しかも、まだ眠いときてる
またハイセさんのベッドの中に沈みこむとふわりと、彼の匂いがふわりと舞ったのか、とてもいい匂いがする
途端に恥ずかしさが込上がってはくるけど、気にしないように、考えることをやめることを試みた
もう、この際2度寝でもいいかな・・・
いい匂いするし、あったかいし・・・・
でも、ハイセさん、結局昨日寝たのかな・・・
再び微睡み始めたところで、ガチャリと部屋のドアが開いたのがわかった
「ただいまー」
入ってきたのが部屋の主であるハイセさんなのは、声でもちろんわかった
でも、現状がハイセさんの布団で寝ているという現状もので、先ほどの羞恥が再び沸き起こり始めた
ここはタイミングを見計らって、ハイセさんが部屋から出たあとに、何食わぬ顔で出ていこう・・・
しかし、そうこうグダグダと迷っていたせいか、布団に重みが加わった
カバンや荷物とかではない、かなり無遠慮な重みは、私の身体全体をプレスするみたいにのしかかってきて、窒息しかける
布団から顔を出し、空気を求めて息を吸い込んだ
「ぷはっ・・・はぁ!何するんですか!」
掛け布団から顔を出し睨んで文句の一つでも言ってやろうかと思ったけれども、すぐ目の前にハイセさんの疲れた瞳とぶつかって、言葉がとまる
向こうも僅かに驚いたように目を見開く
「あれ、今頃起きたんだ?随分とお寝坊さんだね」
先ほどの疲れた表情はどこへやら、ハイセさんはクスクスと笑い、上半身だけ起こす体制をとってくれて、少し楽になった
けど、そこから退くつもりはないらしく、ハイセさんの影が覆いかぶさるようにして見下ろしてくる
「体制的に捕食されそうなんですが・・・」
「え?食べていいの?」
「ち、違います!」
彼はにやりと笑って、僅かに身体をこちらに倒してくる
からかおうとしているのはわかってはいるけど、抵抗せずにはいられなかった
「ハ、ハハイ、ハイ、ハイセさん・・・!」
「はい、ハイセです」
そんな呑気は返事が聞きたいわけじゃなくって・・・・!!
私の身体の左右の布団の端は彼の手で押さえられてしまっていて、布団が邪魔で徐々に近づいてくる彼の身体を手で押さえることができない
ハイセさんの左手が、私の頬に当てる
って、何気なく頭を固定されてませんかね、これ・・・
息遣いがすぐ近くに迫ってきて、灰色の瞳がまっすぐこちらを見つめてくるのが耐え切れなくて、ギュッと目を瞑る
しかし、これが間違った選択なのではないかと思いとどまる
1人で迷走していれば、ポスンと耳の横で音がして、首筋にあたたかい吐息がかかる
私の首にハイセさんが頬を寄せる形になっている
あ、あれ・・・第一関門
とりあえず、セーフ?
「今・・・何されると思ったの?」
私がホッとしていると、悪魔みたいな囁きと含み笑いが、吐息混じりに聞こえてきた
疲れているのもあってか、気だるげな感じが何故かすごく艶っぽい
白と黒の混じった髪がくすぐったくって、僅かに身じろぐ
さっき、寝ている時に布団からした匂いと同じ匂いが、ダイレクトに私の鼻を刺激する
頭がいろんなことが起こりすぎてクラクラしてくる
今、独りではないということを感じられる
さっきは苦しいと思っていた重みが、今では心地良いとさえ思えてくる
でも、この状況はなんか・・・
何か言わなきゃなにか言わなきゃなにかいわなきゃ・・・・
「何かあったんですか?」
何か言わなきゃと思って、何かあったかを聞くという短絡的な質問をぶつけてしまう
しかし、やっと絞り出した会話はすぐに否定される
「何でもないよ」
ハイセさんは誤魔化してつもりらしいけど、ため息を吐いているところから、何もないなんてことがないということがはっきり伝わった
「会議で“告げ口上等”にいじめられたんですか?」
「“告げ口上等”?」
ハイセさんがキョトンとして尋ねてくるので、こくんと力強く頷いた
“告げ口上等”とはもちろん、下口上等のことだ
今回の会議で、前回のトルソー調査の資料を拝見したいとこちらが言ったことを、告げ口されたことはなんとなく察しがつく
きっとその件で小姑のようにネチネチと言ってきたに違いないと、犯人を暴く探偵のようにキリッと私は言った
『告げ口上等・・・・つげ・・・・あぁ、下口上等ね』っと呟いたや否や、ハイセさんはパッと顔を持ち上げて、私の頭をうりうりと撫で繰り回し、ぐしゃぐしゃにしてきた
「ダメでしょ。上官をそんな風に言っちゃ」
ハイセさんに優しくたしなめられて、私はムスッとあからさまな態度に出てしまった
寝癖も混じって、ボンバーみたいになっていないか不安だな・・・
私の髪型がおかしかったのか、それとも“告げ口上等”の余韻が残っているのか、彼はクスクスと笑った
「変なところで察しがいいけど、違うよ」
もう一度、ハイセさんは私の横に顔をうずめる
上官は大変なんだろうなぁ・・・・
なんて、他人事みたいに思ってしまったけど、私にも困り者の後輩はいる
「ハイセさんは背負いこみすぎなんですよ。もう少し、肩の力を抜いてください」
反応がなくて、ちょっと生意気なことを言ってしまったかと思って、不安になったが、さっきの悪魔みたいな声ではなく、弱々しい声がポツリと返ってきた
「しばらくこうさせて」
布団越しからギュッと抱きしめられて、僅かに向こうの温度が伝わってきた
さっき起きれなかった代わりなのか、私の心臓は早鐘のように鳴り、目覚まし時計が内蔵されたのかと思うほど、目がぱっちりと冴えている
すっかり抱き枕がわりにされているけど、とりあえず心を無にして、ハイセさんが満足するのを待つのだった
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