東京喰種 Colos Lie
□6話:レッドカード
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え?
私の身体は、オロチさんの蹴りによる衝撃によるコンクリートの冷たい感触などではなく、優しく掬い上げる腕のぬくもりだった
ふわりと抱き込んでくれたのは、どこか覚えのある腕
コーヒーの匂いがほのかにする身体から顔を離して、待ち焦がれた人を見上げる
普段穏やかそうな顔はどこへやら、彼はきりっとした瞳で射抜くようにしてオロチさんを見据えていた
「遅くなってごめんね」
続いて申し訳なさそうに彼は拳を固めたが、私はゆるく首を振った
「ハイ、セ・・・さ、ん・・・・ごめん、なさ・・・・わたし」
「大丈夫だよ。少し休んでて・・・」
私を横抱きにしているにも関わらず、器用に私まぶたに手をかざし隠してくれた
不思議なことに安心したのか、私の身体からドッと力が抜ける
私の身体から噴出していた赫子は瞬く間に消えていく
私を抱っこしたままハイセさんはオロチさんに背を向け、シラズ君たちの怪我の確認をすますと、私を地面に優しく下ろす
私の腰が冷たいコンクリートに下ろされたと同時に、オロチさんが苛立った口調で噛み付いてきた
「・・・なんだテメェ。紛いモンどもの王様か?・・・・・・・・・・」
続きに何か言いかけて、オロチさんが首を傾げる
何かの違和感を感じたかのように
しかし、ハイセさんはその続きを聞かずに、アタッシュケースからクインケを取り出しており、それを左手で添えて突進する
空を裂くようにして振られたひと振りは赫子によって防がれてしまう
「僕の部下に手を!!だす!!なッ!!」
言葉の一つ一つに怒りを込めた一撃が重くオロチさんにのしかかる
しかし、オロチさんも安々攻撃を当てさせてくれるはずもなく、紙一重でかわしてくる
ひとふりが重いためか、生まれてしまった隙を、執念深くオロチさんが見つけた
きらりと仮面の下の瞳が光る
「ちょこまか・・・ウゼェん・・・・・・だよッ!!!」
「ゲホッ!!!!」
オロチさんはハイセさんの攻撃を屈んで避けたと同時に、ハイセさんの胴体へとその自慢の蹴りを
ハイセさんは受身をとりつつ、体制を立て直したはいいけど、咳き込みながら赤い花びらのように血をこぼす
血のついた口元を拭いつつ、2人のにらみ合いが続く
互いに相手を近づけさせまいと最低限の距離を保つ
すると、ハイセさんがおもむろに、親指で人差し指の第2関節のあたりをこすった
癖だろうと思われるその行動に自覚があったのか、ハイセさんはすぐにそれを引き剥がすようにして指を離してやめた
無理やり癖を去勢するように指を組み、再び落ち着きなく動いたと思えば止まる
「六月くん。アキラさんに連絡を」
ムツキ君は返事の代わりに頷いて、すぐに連絡を取るために駆け出した
流れるような動作で、人差し指がお辞儀をし、親指がもたげ、人差し指を更にさげる
その他の指は固まったようにピンと伸びた状態で、こちらにも聞こえそうなぐらい大きな音で指の骨が鳴った
それが合図だったかのように、ハイセさんの腰の位置から、ゾロゾロと彼の身体の2倍ぐらいの大きさの赫子が現れた
それぞれが別の意思をもった生き物のように、ハイセさんを中心に蠢いている
しかし、一度、彼が指で指示をだせば、赫子は動きを一旦止め、一斉にオロチさんに飛びかかる
空気中にオロチさんのものと思われる赫子が霧状に拡散された
自分の赫子が粉砕され、オロチさんは舌打ちをしたが、彼には自慢の足もあるし、再生も早い
それを目の前にして、ハイセさんは苦笑いを浮かべる
「流石に・・・・タフですねッ!!!」
「そりゃドーモ」
「!!」
すぐ目の前に距離を詰めていた脚力に、ハイセさん同様にこちらも息を呑む
お得意の蹴りを浴びせられて、痛みで苦悶してはいるが、風穴を開けられるほどではなかったらしい
ハイセさんは器用に赫子でクインケをとり、赫子とのコンビネーションで連続して細やかな攻撃を入れていく
水のような流し技からの、滝のような勢いのある打撃
その光景にシラズ君やムツキ君は固唾を飲んで見守る
「スゲェ・・・・クインケと赫子同時に・・・」
「でも、紙一重で避けられている」
またもや隙が生まれ、クインケが手からはじかれた
赫子同士がぶつかり合い、動きを止められてしまう
その動きが止まった隙に、ハイセさんの腹が破れるのではと思うような、オロチさんの蹴りの連打が炸裂する
「そッ、らッ、よッ!!!」
「らぁッ!!!!」
オロチさんは最後のひと噛みとばかりに、ハイセさんの腹に足で風穴が開けた
ハイセさんは抵抗する術もなく、そのままコンクリートの壁へと投げ込まれてしまう