東京喰種 Colos Lie

□番外編:36.5℃の風邪
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天気もいいため、部屋で一人、本を読むよりも、外にでて散歩でもしようかと思った

思ったのはいいけど、リビングへとやってきて早々に暖房のつけられてない部屋の寒さに負けて、これでは外に出たら死ぬんじゃないかと思ったため、結局、コーヒーを飲みながらテレビのニュースを眺めている現状

だって、外は雪が少し積もっていると、元々フットワークの軽くなことを棚にあげ、散歩を断念させるには十分な理由を見つけ出す

ただ、ニュースは喰種捜査の進展など、勤務中にすでに見飽きた内容のものばかりだった

せっかくの休日に暗い話は見たくないから、すぐにチャンネルを変えたが、どこも同じような内容


仕方ないので、ちょうど階段を降りてきたムツキ君を捕まえて、ホラー映画でもみようかなどと企んだ

案の定、そのことを彼に話してみたら、『ひぃ』という短い悲鳴があがった

可愛らしかったが、自分も苦手なためやめておいて、普通の談笑をすることにした


勉強熱心の彼は、捜査の手順や状況に応じての対応を聞いてきたが、これでは勤務時とかわらないと思い、一通り答え終わったら別の話題へと何気なく移行した



「ねぇ、何でムツキ君はハイセさんのこと“先生”って呼ぶの?」

『ほら、ウリエ君は佐々木一等で、シラズ君はサッサンじゃない?』と首を傾げる

ムツキ君に視線を合わせると、内気なせいか少し視線をずらしてからオズオズと答えてくれた


「特にこれといったわけではないのですが、俺たちQsのメンター(指導者)だと聞いたとき、“先生”ってお呼びしていたのが定着したんです」


確かに、指導者なら、先生っていうのは別におかしくない気がする

霧が晴れたような気分で、ずっと考えてたことを口にして、コーヒーがこぼれそうなぐらい笑ってしまう


「ハイセさんが趣味で呼ばせてるのかと思ったよ」

「僕がなんて?」

「いや、ですから、ハイセさんの趣味が――――・・・・・・」


ムツキ君の視線が私の頭上へと移っていく

私も声がする方へと・・・つまりムツキ君の視線の先、自分の頭上へと顔をあげる

最初からいたとばかりに自然にその場に立っていて、コーヒーまで作っていたハイセさんが興味津々といった様子で私の座っている背後に立っていた


「あつっ・・・・ッ!!」


注意力が散漫してしまっていて、上を見上げると同時にマグカップを持っていた手を傾けてしまう

溢れたコーヒーが手にこぼれ、熱さに身体が飛び跳ねた

「大丈夫ですか!?俺、タオル持ってきます」

「六月くん保冷剤もお願い!あーあー!麗愛ちゃん!全く余所見しちゃダメじゃないか!」


私の手からマグカップを奪うと、私の正面へと移動して屈む

「これぐらい大丈夫ですって」

早速熱さや、ヒリヒリとした痛みを感じなくなったので、火傷をしていない手でハイセさんを止めるが、断固として譲ろうとはしてくれなかった


「ダメだよ!火傷でも痕とか残っちゃうかもしれないし」


Qs班に所属している理由からしても、普通の女の子とは違うのは、彼もきっとわかっているはずなのに

普通の女の子として扱われる小っ恥ずかしさに、これ以上は何も言えなかった



ハイセさんはムツキ君からタオルを受け取り、『後は僕がやっておくから』と自室へと帰らせた

私もムツキ君に一言お礼を言って、階段へと登っていくのを見送った


ムツキ君から受け取ったタオルで、コーヒーを染み込ませながら、手に何度もポンポンと押し当てられる

痛みよりもむず痒さを覚える


ハイセさんは手をタオルで拭きながらも、私への日頃の注意不足やらなんやらで、ぷりぷりと愚痴をこぼしたので、手を吹いてもらい終わった頃には耳にタコができた


零れたのはフローリングの床のみだったから、掃除は簡単に終わる

これでカーペットだったら、ハイセさんの小言はまだ続いただろう


「ハイ、これに懲りたら気をつけてね」

「はい、“先生”」

ハイセさんんは最後のひと吹きをしてくれた後、一言たしなめられて、私は嫌味も込めてそう呼んだ


「先生・・・?」


自分の聞き間違えかと思ったのか、ハイセさんは目をぱちくりさせる

彼の反応からして怒っていないのはわかったけど、なぜそう呼ばれているのかわからないといった感じで首をかしげて、薄いフレームの丸眼鏡をかけ直して隣に腰をおろした


それが、ますます先生みたいな仕草で、ムツキ君が呼ぶのも頷けた

彼はリビングに来る前は自室で読書を読んでいただけだったのか、Yシャツとカーガンというラフな格好で眼鏡をかけており、いかにも先生という感じだった


「何か学校の先生みたいだなって思いまして・・・」

それか保健室の先生っと付け加えると、彼は私の顔を覗き込んだ



「もう一度呼んで」



神頼みとでもいうように、『お願い』と手を合わせられる

何でそこまで必死だったのかはわからないけど、特に嫌な理由もなかったため、呼んであげることにした


「せんせい・・・・?」


妙に緊張して、拙い感じになってしまったけど、『ちょっといいかも』とボソリと呟かれた

不発みたいな感じだったけどよかったのかな?

私の心配とはよそに、予想以上にハイセさんの中ではブームが沸き起こったらしく、嬉しそうに頬を緩めているから、まぁいっか


「麗愛さん、今日はどうしましたか?」




急に咳払いをし始めて真剣な顔で何を聞かれる

どうやらハイセ先生の中では先生とはお医者さんで固定されているらしい

いつも、“麗愛ちゃん”と呼ばれていたため、さん付けで呼ばれて一瞬胸が高鳴った


白衣はないし、カルテなども持ってはいなかったけど、声の落ち着いた感じや考え深げな表情はたしかにドクターだった


質問に対し私が応える前に、『お熱ですか?』と私の額に自分よりも冷たい手が乗せられて身体が驚いた



「ちょっと火傷をしまして」

ちょっとノリが悪いかも知れないけれども、身体を引いて額に乗せられた手から逃げる

ハイセさんは残念そうに手を膝の位置に戻して質問を続けた


「それは大変ですね。どこに火傷をしましたか?」

「あの、ハイセさ―――・・・??」


耐え切れずにそう呼べば、『今は先生だよ』っと小声で訂正を入れられる

しかたないので、怪我をした方の手を差し出す


その手を労わるようにして優しく取られると、手のひらと甲をしばらくながめられる

座っているのにさらに身体をかがめて、火傷の様子を伺う先生

真剣な視線に当てられて、痛くなくなったはずの火傷が疼き始める


そして沈黙の後、重いため息混じりに診断がくだされる

「これはひどいですね」

「え?!そんなにですか?」


大丈夫だと思っていた火傷の痕を不安げにもう一度見直す

僅かに赤らんでいるだけで、大したことはないとは思っていたのは間違いだったのか、自分が思っているよりも重症なのかもしれない・・・・

不安そうに先生の表情を伺うと、緊迫した表情はしてはいるようにも見えるけど、笑いをこらえるように下唇を噛み締めているのがわかった

騙されたことに気づいて、口を開きかければ、彼がこらえきれなかった笑いを漏らす


「ハイセさん!そうやってからかって・・・・・!もう平気ですから離してください!!」

へそを曲げてしまった私をなだめるようにして、ハイセさんは手を撫でる


「お薬出しておきますね?」


まだこんな“ごっこ遊び”を終わらせないのかと怒ろうと思ったけど、私の手は握りこまれ、火傷の位置を目線まで持っていかれた

火傷の痕の上からハイセさんの冷たい唇が押し当てられ、ちゅっと可愛らしい音がして、すぐに離れた



「じゃあ、麗愛ちゃんお大事に」



普通なら患者が出て行くところだけども、これを言い残し、先生―――ハイセさんはリビングに私を残して、風のような速さで自室へと引きこもってしまった


何なんだ一体・・・・・ッ!!


キスされた手が導火線だったかのように、そこから私の顔にかけてワンテンポ遅く熱が溜まり、今にも爆発寸前なぐらい震える

やり場のない怒りなのかわからない感情が爆発して、この場で叫びたい気持ちをグッとこらえる


ハイセさんのせいで絶対風邪ひいた・・・・!!



怒りと熱のこもった瞳でハイセさんの自室を睨みつけ、本当に熱が出てしまったのかと思うぐらい熱くなった頬を押さえ、体温計を探すために席を立つのだった






2015*01*04
 

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