東京喰種 Colos Lie

□8話:透明な檻
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すでに時計の針は深夜をさしている

それを知ってはいるものの、コーヒーの濃厚な香りが私の鼻を刺激し、自然と鼻歌を奏でてしまう


もちろん、それには秘密がある


何といってもこれはちょっと値のはったコーヒー!!

これで釣られない者はいないはず・・・・!!




まだ熱いうちにお盆に2つコーヒーを乗せ、いざ参らんとハイセさんの部屋の前に立ち、怖いほど静かな扉に向かい、控えめにノックをした

いつもはすぐにドアを開けてくれるのに、今回はハイセさんの返事だけという寂しいお出迎えだった


ドアに耳をくっつけていないと聞こえないぐらいの返事に、私の幻聴だったのではないかと疑ってしまうが、確かに入っても平気だという返事があった

意を決して、閉まりそうになるドアを肩で支えながら、恐る恐る部屋の中に首だけを出す


「ハイセさん、失礼します。コーヒーをお持ちしましたー・・・」


ベッドに座ってこちらに背を向けている彼に小声で告げれば、肩がびくりと揺れた

振り返りもせずに、やや下がっている肩は、ベッドへと沈めようとしていたようにも見える

もう眠ろうとしてたのかな?お邪魔しちゃったかな・・・

直ぐに部屋からでようか迷ったものの、ハイセさんからすぐに返事がきた


「あぁ、麗愛ちゃん!ごめんね、散らかっていて」


机の上が今回の事件の資料などが乱雑しているだけで、それ以外はこざっぱりとしていて、むしろ片付いているといってもいいぐらいだった

あがってあがってという声に招かれたので、堂々と入っていいところなのだが、なぜか私は忍び足で部屋に入った



少し怒ったようにハイセさんが口を開いた


「全く!瓜江くんにも手を焼いちゃうな。上官の自信をなくなっちゃうよ。僕だってなるべく、栄養バランスのとれた食事とか、洗濯まで頑張っているのにさ!・・・ん?あれ?これってただの便利な家政婦だよね!?」



近寄れば、ハイセさんの元気な声に驚かされて、危うくお盆をひっくり返しそうになった


ハイセさんはトホホと溜息をつき、肩を落としている姿は普段通りに見える



よかった・・・いつも通り・・・・・・かな?


というよりも、いつもより元気すぎるぐらいに感じる

本当にいつもどおりと言えるのだろうか


ゆっくりと近づいてから、私は首を振る



「ハイセさんが家政婦だなんて、そんなことないですよ。料理はとても美味しいってみんな言っていますし。私ももし食べられたら食べてみたかったです。今日のウリエ君もちょっと頭に血があがっちゃっただけですよ」

正直、ヒトの食べ物は見た目ならまだしも、感触や味覚はとてもじゃないけど、私は食べられないけど、慰めるつもりでそう言う

ウリエ君のこともカバーしつつ、私は彼を励ますことにしたが、続きを言う前にハイセさんによって遮られてしまった



「ありがとう。ねぇねぇ、そういえばさ―――・・・・」


ハイセさんはまるで気まずい空気を避けるように、会話を途切れさせまいとしているのか話題が底をつかない

なぜだか流されてしまっているようにも感じ、不信感を感じ始めたものの、私は相槌を打ちながら、コーヒーをベッドの目の横にある作業机の上に置く

置くと同時に、白い湯気が霧のように分散され、匂いが部屋に立ち込めた

寒さのせいもあってか、より部屋にコーヒーの匂いが充満している気がした

そのため、おそらくハイセさんの鼻赫子もその匂いに気がついたのか、彼の話は一旦止まる


いい匂い・・・・

ちょっと奮発しちゃったコーヒーだから、きっとハイセさんも食いついてきてくれるはず・・・!


私は淡い期待を胸に、ベッドに座っているハイセさんの方へと踊るようにして勢いよく振り返った

スリッパの滑りがよくって綺麗に回る



「ハイセさん、どうですか!?」



彼の顔を覗き込むようにして尋ね、自分のことのように自信満々に胸をはった

主人の言うことを聞いた犬のように、褒めてくれと言わんばかりに、ハイセさんの前に上半身を屈みこむ


今ならハイセさんの普段の子ども扱いするような頭を撫でる行為もご褒美に感じるだろう

しかし、そういう時に限って、その行為はされないものだった


おかしいなと感じながらも、私の口は止まらない



「このコーヒー、実・・・は?」



え・・・・?


私と目が合ったのは、ハイセさんの真っ赤な瞳だった

真っ赤だといっても、赫眼ではない

泣き腫らしている瞳





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