東京喰種 Colos Lie

□番外編:優しい味
1ページ/2ページ



麗愛のQs班の副指導者としての仕事は、本来のCCGの任務とはあまり大差はない

佐々川琲世一等捜査官と同様、基本的な炊事洗濯などの生活管理から戦闘指導と幅広く取り扱う

麗愛が主に取り扱っているのは、戦闘指導と捜査計画などのディスクワークなどであり、生活管理などの仕事はハイセに任せっきりにしている

しかし、今日は肝心の教えるべき後輩はハイセたちとCCGの局へと行ってしまっているため、平たく言えば暇で仕方ないのだ

かといって、会議などの資料作成をするには、まだ日にちがあり、正直やる気が出ないでいる

そこで、ふと麗愛は台所へと視線を向けた


麗愛は腕まくりをし、意気揚々と台所へと立つ

滅多に台所へと立つことがないわけだが、別にヒトの料理を作れないわけではないと自分を奮い立たせる

ただ、自分は『食べられない』のだ

そのため、作る必要はなく、今まで必要最低限の家事しかしたことがない


現在はインターネットでの検索をかければ、レシピなどが様々出てきて、難しい料理レシピが簡潔に説明されているものまである

適当に見て回り、美味しそうだと思うものを適当に選ぶ

とはいっても、すでに見た目を見るだけでも胸から何かこみ上げそうだったが、ぐっと我慢する



「ハンバーグ・・・?」


首をひねりながらレシピをみる

最後にこの著者の子ども達であろう、2人の男の子たちの写真が目にとまる

2人ともハンバーグを見て目を輝かしながら、美味しそうに頬張っている


画面をスライドする手を止めて、もう一度上の材料を見直す


同時に冷蔵庫を開きながら、中にある冷えた野菜とひき肉があることが確認できた

材料もあるため、手順さえ守れば作れなくはないと踏み、麗愛はエプロンを首から下げ、紐を腰の位置で結ぶ

腕まくりと手洗いを済ませ、両手のひらを前にかざす形は、料理というよりも手術に近いフォームだ


麗愛は並べた材料を睨み据えて、アタッシュケースを取り出した

料理には不似合いな道具ではある



「為せば成る、為さねば成らぬ何事も」




※※※※※※※※※※


慌ただしい賑やかな声が麗愛の耳にまで届く

ガチャリと玄関の鍵が回される音を聞き、3人分の足音がリビングへとやってきた

それに合わせて麗愛も一旦手を止める


「おっ!美味そう〜」

「おかえり、みんな」


シラズは『ただいま』と言う前に、外から匂いがしていたのか鼻をヒクつかせながら、第一声がそれだった


任務から帰ってきたメンバーを迎える頃には、すでに人数分の料理がそこに並んでいた

シラズは早くも腹の音が鳴っており、料理に手を伸ばしていた

しかし、手がつく前に、麗愛が軽くシラズの手の甲を叩いてたしなめた


「手を洗ってからだよ!」

『ちぇ』と唇を尖らせるシラズのほっそりとした背を押す

なかなか進もうとしなかったが、なんとか洗面場へと連行した


「すみません、料理を作ってもらってしまって」

「ううん、おかえりなさい」


ムツキは『ただいま』というべきなのか、『ただいまかえりました』と かしこまっていうべきか悩む

しばらくいうことがなかった台詞よりも先に、日頃よく言う言葉がでた

「ありがとうございます」

礼を言うムツキに麗愛は微笑む

それにムツキは視線を空に漂わせてから、視線を皿へと移す前に、誤魔化すようにして台所へと向かったシラズを追う


「ウリエ君、ハイセさんは?」

「車庫入れしているので、後から来るそうです」

「そう、わかった!」


それだけいうと、ウリエは表情を変えずに、視線だけキッチンに移す

気づいた麗愛は、シラズ同様にウリエにも同じことをいう


「ウリエ君も手を洗ってきてね」

「はい(ガキじゃあるまいし)」


心の中で舌打ちしながら手袋のしている手をこする

ウリエは心の中で文句をいいながらも、それに素直にそれに従い、ムツキたちと同様に洗面所へと向かった


「(それより、何だ・・・この匂い)」


鼻をくすぶらせて、ウリエは匂いをたどる前に、洗面所の石鹸の匂いによってそれが消されてしまう

洗面所ではシラズが麗愛に言われたとおり、石鹸をこれでもかというほど泡立てている



ウリエと入れ違いになるように、車の車庫入れを終えたハイセが、玄関からリビングへと向かう音が聞こえる

夕食を作るという普段し慣れていない行動への気恥ずかしさから、麗愛はわたわたと食卓の机の前を往復する

今更何かなるわけでもないのだが、夕飯について何か言われる前に逃げ出したいような焦りさえも感じた

もちろんそんなことはハイセが知るはずもなく、車のキーを置くと、まっすぐにリビングへとやってきた


ハイセはコートをソファーに置いて、カバンもついでに投げだす

ネクタイを緩め、これから晩ご飯の準備をしようとしたのだろう

腕まくりをしながらキッチンに行こうとすると、すでに先客としてキッチンに立っていた
麗愛と目が合う

さらに視線をずらしてみれば、普段自分がつけているエプロンを麗愛がしている


ハイセがぴたりと動きがとまる



「えっ、えっー!?」

「お、おかえりなさい」



ハイセが目を見開き驚きの声を上げる姿は、麗愛が想像していたよりもオーバーで、すました顔をするのに精一杯だった

バレないように麗愛は唇を噛み締める

ハイセは台所からテーブルに並べられている料理を見やる

あまりの勢いにテーブルにぶつかりそうだったが、その前に、椅子の背もたれをつかみながら、テーブルに身を乗り出す


「こ・・・・・れ、麗愛ちゃんが作ってくれたの?」

「は、はい…」

「サラダも?」

「はい」

「ハンバーグも!?」

「はい」


毒でもはいっているのかと疑るような目で見られたかと思えば、次にハイセの表情がぱっと明るくなる

自分が食べれないのにも関わらず、ハイセは笑みを絶やさずに麗愛を手招きした

麗愛は警戒しながら黙っておずおずと前に出る


「ありがとう!」


ハイセはぽんぽんと頭を叩きながら、目尻と口元が緩くほぐす

先程よりも強く下唇を噛み締めながら、ついつい誤魔化すようにして口走った


「ハイセさんも早く手を洗ってきてください!」


『はいはい』とハイセさんは嬉しそうに肩をすくめると洗面所へと消える

食器を用意しなきゃと麗愛が背を後ろに向けている時だった

今度はハイセと入れ違いになるようにして戻ってきたシラズ


麗愛のことだから、全員揃うまでは誰ひとりとして先に食べてはいけないと目を光らせるのではないかと、忍び足でテーブルに近寄る


まだ湯気が立っているであろうハンバーグの中で、どれが一番大きなものか並べて見比べる

その中で一番大きいであろうハンバーグを選ぶと、隠し持っていたフォークを押し当てた

シラズは麗愛の方を伺えば、まだナイフやフォークを探しているらしく、金属がこすれあっている音がする


それにシラズは『にしし』と声にしない笑い声をあげ、視線を皿の上に戻す

押し当てた部分から肉汁が溢れて、シラズの喉がゴクリと鳴る

フォークでもあっさりと切れ、一口大にしたハンバーグをフォークで突き刺し、口へと持っていく


タイミングが悪く、食器を探し終わった麗愛は、シラズの口へと運ばれているハンバーグをみた


「シラズ君?」

「んおっ!?」


熱々のハンバーグがそのままシラズの喉を通り、全身に鳥肌が立つ

口をどんなに開けても熱が逃げることはなく、シラズは頭を上下にしたりして熱から逃げようと悶える


「あつっ・・・・あちっあちあち!!」


麗愛は自業自得だと思ったが、『女神さま!』と都合よく宣い助けを求めるシラズに、いいから早く飲みなさいと、水の入ったグラスを手渡してやる

ゴクゴクと音を立てながら喉仏を上下に動かしながら、シラズは『ぷはっ』と風呂上がりの牛乳のような声を上げた

麗愛は目を釣り上げた


「シラズ君、きみねぇ―――」
「何か、・・・・味・・・変じゃね?」

「え!?」


麗愛はシラズの一言に素っ頓狂な声を上げた

何かの冗談や怒られるのを回避するための策略かと思ったが、シラズの青白い表情をみて、麗愛は視線をハンバーグへと移す

どこからどう見てもハンバーグ

自分が持ってきたフォークで、食べかけだったハンバーグの反対側を一口分切る

火はちゃんと通っているのを確認して、シラズの言葉の真意を確かめるべく口へと運ぶ


数回噛むと、椅子の背を掴み、なんとか座り込むのを止めた


「っぐ・・・っ、本当だ!?変な味がする・・・すり潰したミミズを食べているみたいな感触」

「そりゃあ、そうだろ!俺らと味覚が違うんだから」


シラズはいい終えた後、しまったという顔をしたが、麗愛は特に気にした様子はなく、口の中に入れていたハンバーグをティッシュの上に吐き捨てて、グシャグシャに包んで捨てた




「どうしたんですか?」

手洗いから帰ってきて、シャツの袖をまくっていたムツキ君の腕を麗愛は掴み、テーブルへと急いでつかせた

急に引っ張り込まれ、テーブルにすし詰めされ、オロオロしているムツキに麗愛はフォークを持たせた


「ム、ムツキ君・・・・!」

「は、はい・・・」

「食べてみて!」


切羽詰まった表情の麗愛に押されるようにして、皿の上にあるハンバーグをみる

ムツキは先ほどのシラズと麗愛の状態を見たわけではないが、2人の食い入るような視線に、手汗でフォークが滑りそうになりなる

ムツキ用に準備されていたハンバーグを差し出し、そこにフォークで切り口を入れる

小さめのを一口、ぱくりと加える


数回噛むと、ムツキの口の動きが止まる


「どう・・・かな?」

「えっと・・・・・・」


不安気に揺れる麗愛の瞳に、ムツキは視線を泳がせる

すぐさま青白い顔をする


「とても・・・個性的な味がします」


彼なりの控えめな配慮のある一言に、麗愛は甲赫で殴られたような顔をした

おまけに口元に手を当てて、ムツキはかがみ込む有様だ

その背をシラズが哀れんで撫でてやっている

『辛かったら出せ』とまで助言している始末だ



「ウリエくーん!!サイコちゃーん」

おそらく2階にいるであろうサイコがご飯かと思い、裸足のままのこのことやってきた

だが、エプロン姿の麗愛を見て、『ママンは?』と首を傾げて警戒しているのか、途中で降りるのをやめてしまった



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ