東京喰種 Colos Lie

□番外編:優しい味
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サイコがこちらに来るよりもウリエが早く、麗愛の標的はウリエに移った

「どうかしましたか?(煩い)」

「ちょっと、何も言わずに食べて!!」


鬼気迫る必死の形相で麗愛はフォークでハンバーグを突き刺し、それをウリエの前に差し出す

あからさまに嫌そうな表情でウリエは麗愛と差し出されている物を上半身を仰け反らしつつ睨む



「ほうほう、これが俗にいう『ダーリン、あ〜〜〜ん』って奴ですなぁ」

目を輝かせながら、階段で胡座をかくサイコ


しかし、そんな甘い雰囲気は、この場では持ち合わせていない


ナイフを脇腹につきつけられ、『食わねば死ぬぞ』と脅されているようなものだ

ウリエは一歩だけ後退り、自分よりも背の低い麗愛の肩を押し戻す形でとどめた


「さっきから思ったんですが、何を入れたんですか?(毒でもいれたのか?)」

「普通に、ふつ〜のもの」

「だったら、この匂いはなんですか(もとい、異臭)」


鼻をつまんで見せるウリエに、麗愛は膝から崩れそうになりながらも、手に持っていた凶器でもあるフォークを皿の上に戻す

シラズやムツキよりも嗅覚の鋭いウリエは騙されることはなかった

もともと騙すつもりではなかったのだが、嫌そうな顔をされると思わなかった麗愛は泣きそうな顔になる



「えっと、どうしたのかな?」

「ハイセさん・・・・」

頬をかきながら、申し訳なさそうにハイセが現れる


それと同時に、ウリエは麗愛の肩から自分の手を離す

見ようによっては、自分が麗愛に何かを無理強いさせているように見えなくはないため、事態の収集がつかなくなるからだ


しかし、次に麗愛は信じられないことを叫ぶ


「ハイセさんんんん!!クインクス全員の喰種化が早まっているようです!」


「うぇ!?」
「え!?」
「・・・・(!?)」
「ブルータスお前もか?!」


とんでもない裏切り発言に他の4人は目を剥く

フレームのレベルを引き上げたわけでもないのに、自然と喰種化が進むはずがない


「ちょ、ちょっと落ち着いてよ、麗愛ちゃん」


取り乱す麗愛の肩をさり気なく抱くと、彼らから少し離れた椅子に座らせた

そして、ハンバーグを食べたが、味がおかしいという話をすると、ハイセはシラズたちに事実確認をする


「えっと、みんな本当?」

「マジで変な味がするんだって」


もう一度だけシラズがハンバーグを口に運ぶと小さく唸った

甘いとかしょっぱいといった言葉で表現できない味に、顔をしかめてはみたが、急にシラズは笑い出す


「普通に、下手なんじゃねぇの?」

空気を読まない発言にその場の空気は凍ったが、シラズが悪気なくケラケラと笑う


「こんなんじゃ犬も食えねぇよ。麗愛センパイ、嫁の行き手ねぇな!」


シラズのとどめの一言に麗愛はショックでふらりと立ち上がり、自分の指を握り締める

ハイセは心配になって麗愛の顔を覗き込むが、無表情のままで、それが返って心配になる


シラズの前までスタスタと歩く

さすがのシラズも笑うのをやめて黙った


下手したらビンタの一発でもあるのではと、ムツキはソファーに置いてあったクッションで顔を隠しながらそちらを伺う


シラズの前で止まり、麗愛はブツブツと呟いた

さすがに聞こえないぐらい小さい声だったため、シラズは顔を近づけて耳をそばだてる


麗愛がバッと顔をあげた

危うくシラズの顔面に当たりそうだったが、その耳元で大きく息をすった



「別にいいもん!!喰種のお嫁さんになってやりますよ、ええ!!」



その場にいたもの全員が耳を手で覆い隠すぐらいの音量で叫んだのだ

至近距離にいたシラズにとっては、耳元でバズーカが放たれたような衝撃だっただろう

シラズは耳からの脳にかけてキーンとした耳鳴りがして、視界がぶれる


麗愛はそんなこと知ったことではないと、やけくそにエプロンを投げ捨てる

シラズの足元にぐしゃぐしゃに広がる


「使わないよ、一生、こんなもの!」



怒りをあらわにして、麗愛は鼻を鳴らして、ポケットに手を突っ込んだ


「喰種なら嫌というほどいるしね!喰種収容所のコクリアにね!選り取りみどりだしね!」


フンッと鼻を鳴らして、並べてあった皿を乱暴にキッチンに戻す


「料理ができなくったっていいもん、人殺せれば。切り刻むのは得意ですし〜?」


CCGの局員とは思えない発言をし、ギロリとシラズを睨む

ここまでキレた麗愛を見たことがなかったのか、シラズは背筋に冷たいものを感じた


「ママン、ネェネが姉御になっていて怖い」

「うん、僕も怖いよ」


サイコはハイセに子どものように擦り寄るが、その手に持っていたスマホは軽快に動いている

ハイセも正直、麗愛をどう止めようか悩んでいた


「早く、皆さんで外食してきてください。全部片付けるんで。それとも皆さんが夕食になります?」

『あ、目が本気だ』と止めなくてはいけないとハイセは悟り、とりあえずキッチンに潜伏している麗愛の方へとゆっくりとよる


料理を馬鹿にされたからといって、ここまでキレるのだろうか

確かに自分の料理を馬鹿にされたら、怒る・・・いや、悲しいという気持ちになるかもしれないと改めた


ふてぶてしくポケットに突っ込まれた麗愛の手をみて、ハイセはハッと気づき、そのあと何事もなかったように彼女の顔をみた




「じゃあ、僕がもらってあげるよ」




麗愛は少し考え込む

それは料理を?


それとも




「えええええええ!!???」



ハイセは半喰種であり、確かに人間の食べ物を食べる必要がないわけだが

麗愛の怒りはすでに吹っ飛び、驚愕する


元から怒っていたわけではないのだが


すぐさまハイセのパンと鳴らしした手で空気を変えられた

ダンスのレッスンのように淡々と指示を出す

「はい、みんなは外食しておいでー」

「マジで!?オゴリ!?」

シラズの一言に呆れたようにハイセが頷く

目を輝かせるシラズだったが、ハイセがポケットから財布を取り出し、万札を渡すとさらに輝いた

「うんうん、マジだよ」

「あーざす!!」


いそいそと、脱いでいたコートを羽織りなおし、シラズは他のクインクスたちを引き連れて外へとでていく

心配そうに最後振り向いたムツキだったが、ハイセが言っておいでと手を振ると一礼して遠慮部影にドアをしめていった

それをハイセが手を振って見送る



シャトーのリビングは麗愛とハイセの2人のみではあまりにも広すぎており、沈黙の空気が充満しきっていた

麗愛は不機嫌そうな顔を作りながら、ポケットから手を出さずにハイセを睨む

ガラの悪いヤンキーのようではあるが、麗愛にそれほど迫力がないためか、ハイセは思わず苦笑をもらす

自分の両手のひらを上に向け、まるで犬にお手をさせるように麗愛に向けた


「はい、いい子だから手を見せて?」

「いい子じゃないんで遠慮します」



揚げ足を取ろうとする麗愛だったが腕を掴まれ、そのまま引き上げられてしまう

自然とポケットに入れていた手は外に出るわけであり、ハイセの考えは確かなものとなる


麗愛のポケットから引き抜かれた手は、絆創膏で何重にもまかれていた


「これは派手にやっちゃったね」

「・・・・・・・」

「何でやったの?」

足元に置いてあるアタッシュケースをちらりとみて、ぶっきらぼうに答えた


「クインケで・・・」

「何で料理するのにクインケでやっちゃうかな」


ドジをしてやらかしたという風には見えないぐらい重症の指をみてため息をつく


普通の包丁ならすぐに回復する

そもそも、あまり皮膚を通さないのにも関わらず、あえてクインケを使ってしまったなんて


「おバカさんだね。もう少しうまい具合に言えば、あの子達も納得したのに」

「反省は・・・しています」


『一応』と呟く


「指を見せたところで、同情させて無理に食べさせるのも可哀想ですし・・・」

麗愛の語尾が尻つぼみになっていく


「もう・・・・」


『不器用なんだから』とハイセはため息をつく


確かにムツキ君あたりは本当に食べかねない

そこらへんを配慮したのかと思えば、怒る気力が起きない

もとより怒る気はなかったが


ハイセは素早く麗愛の額にキスした

何をされたのか一瞬麗愛はわからなかったためか、赤面することなく上目遣いでハイセを伺う


「今度、料理ぐらい教えてあげるから一緒に作ろう?」

「お願いします」

「僕たちは食べる必要ないし、今日は休もう?」

「でも、まだ片付けが」

「明日の朝やろう?」


麗愛はしおらしく頷く

ハイセは麗愛の背に腕を回し支えるようにして階段を登っていく際、玄関からリビングの間のドアからカタリと音がして振り向くが、すぐに登りなおす


面白いぐらい凹んでいる麗愛を見て、ハイセは笑いを噛み締めながら、その背を押すと抵抗なく同じ部屋に入れられた




麗愛とハイセの2人が階段を登り、部屋に入るのを確認し、外食をしに行っていたはずのシラズたちはドアの前で息を吐いた

「一瞬バレたかと思ったぜ〜」

シラズは壁に背を預けてズルズルとだらしなく座る

あんなやりとりを見ていた後だったためか、4人ともしばらく沈黙する


シラズはぺらりとハイセからもらった一万円札を鼻先で仰ぎ、ぽつりと呟く

「俺、バイクのメンテで金ピンチなんだわぁ」

一万円をシラズはポケットへとしまい懐に収めた

それを見て、後ろにいたウリエはシラズを睨む



「ふざけるな」



その一言に、『お前も散々俺のバイクに乗っているだろ』と怒鳴りたい気持ちをぐっと抑えた

まだ、ハイセと麗愛は起きている、ここで叫ぶわけにはいかない

シラズは文句があるのかと睨めば、ウリエは舌打ちをした


「画材分も入れておけ(一番高いのな)」


一瞬だけ、ウリエが何を言っているのかわからなかったのか、シラズはポカーンと口を開けたが、すぐににやりと笑い、『仕方ねぇな』と笑い混じりの舌打ちをする


「じゃあ、じゃあ!こちらは限定のフィギュアで手をうちませう」

これは便乗しない手はないと思ったのか、胸をはりながらサイコは挙手した

ムツキは慌てて、サイコの口を手で押さえ、声を塞ぐ


「んじゃあ、金はねぇし、仕方ねぇからまずい飯でも食うか!」

「まずい飯は失礼だと思うよ」


ムツキはシラズを止めながらも、その表情はとても優しげに微笑んでいた

4人それぞれの食器を手に渡っていくと、生命一つに礼儀正しく礼を言う


次の日、憂鬱な気分で料理の片付けをしなくてはと早めに目を覚ました麗愛

しかし、そこに無残に残されているハンバーグの姿はなく全て綺麗に空になっており麗愛は目を瞬かせるのだった



20015*03*24
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