東京喰種 Colos Lie
□1話:青天の霹靂
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真っ暗だった外に朝日が指しているのに気づいて視線をあげた
部屋の本を一から読み直すぐらい時間を持て余してしまっていたから、朝が訪れてきたことは私にとっては朗報だった
すでに朝刊が届いたのを見計らい、下に降りて備え付けられているポストから手探りで新聞を探し出した
モーニングに定番であるアメリカンコーヒーを準備し、片手に持っていた新聞へと視線を送る
一昨日からやっているニュースのおさらい、おめでたな結婚からのお騒がせスキャンダル、王座を守り抜いたチャンピオン
どれも見飽きてしまった内容で、今は新聞の最後尾の4コマ漫画を淡々と読んでいる途中だ
トントンと軽快な足音が階段から聞こえたかと思えば、ドサドサと何かが転げ落ちるような音がしてそちらの方に慌てて目を向ければ、階段の下で顔面から落ちたシャチホコのようなポーズをしているシラズ君が伸びていた
くぐもった声がして私は我にかえって彼を助け起こした
「シラズ君大丈夫!?」
「麗愛センパイ、はよー・・・」
「はいはい、おはよー」
寝ぼけて階段から落ちてしまったらしいのは明白で、ひよこ頭に星が飛んでいる
片手をあげて挨拶をしている彼の脇の下に手を回し、死体処理でもするかのようにして引きずる
ドサリと投げてソファーに座らせてあげた
重い重い・・・
シラズ君を運ぶというひと仕事を終え、私は自分も深くソファーに座り込む
3コラムほど新聞を読みすすめたところで、シラズ君が薄らと意識を取り戻し始めたのか、爬虫類を思わせる瞳を細く開いた
薄っぺらい新聞紙に上手く指が引っかからず、次のページに目を移す前に、シラズ君が唐突に口を開いた
「なぁ」
「なぁに?」
酔っ払いへの対応のように適当にあしらおうと思いコーヒーを一口すする
シラズ君は無関心な私を気にした様子もなく、じっと私を見ながら首をかしげた
「サッサンと何かあったのか?」
シラズ君の一言に私は新聞に飲んでいたコーヒーを全て吹き出しそうになった
グッと堪えてゴクリと飲み干した
「ごほっ!げほっ!!・・・・・何かって?」
シラズ君が頭を振る
「いや、別に特に何かあるわけじゃねぇんだけどよ、何となく?」
後頭部に手を回しながら、ソファーにふんぞり返るように座り直すシラズ君
本当に何も気にせずに聞いてきたらしい
勘がいい子だけど、特に確信があって言ったわけではないようでひと安心する
アキラさんの勘とはまた性質が違うから要注意だ
「そんなことないよ?」
「そうか?」
シラズ君は自分でもなぜ唐突に思ったのか不思議なようで、自分自身に頭を悩ませているようだったため、特にこちらが何か他に言うことを考えたりする必要はなかったらしい
あとは話を逸らすだけ・・・
「今日は局に行くけど、準備の方はいいの?シラズ班長?」
決めの一言を告げれば、シラズ君ははりきってぱっと立ち上がる
顔面の擦り傷は綺麗に無くなっていた
効果は絶大だったらしい
「おおう!そうだった!いけねぇいけねぇ!!」
大慌てで部屋へと戻る際に、サンキューと口笛を吹きながら言い部屋へと戻っていくのを見届けて、どっと息を吐いた
無駄に力んでしまい、手汗でマグカップが滑りそうだったため、テーブルの上にゆっくりと下ろす
ハイセさんとのことを聞かれるのなんて唐突すぎて、すぐに対処ができなかった・・・
不覚過ぎて少しだけ凹む
自分の失態を忘れることに専念することにした
目頭を押さえながら、再度私は新聞を撫でた
先日、トルソーの家宅捜査を行っていた下口班がラビットの襲撃にあった
ニュースや新聞などの報道では伏せられているらしい
下口上等以外の捜査官が全員殉職・・・
これだけの事件が載せられないで、誰にも知られることなくひっそりと葬られるなんて
私は用のなくなった新聞を丸めてゴミ箱へと無造作に突っ込んだ
ぐしゃぐしゃにされた新聞は恨めしそうに、ゴミ箱で開こうともがいている
まるで事件の話を蒸し返そうとばかりに
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