東京喰種 Colos Lie

□番外編:グラスから溢れる愛
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4月2日といえば、こどもの本の日、週刊誌の日、図書館開設記念日


そして、指導者と副指導者―佐々木琲世と上城麗愛の誕生日となっている


カレンダーに誰が書いたか忘れてしまったが、他のメンバーの誕生日まで記されたそのカレンダーには控えめにそう書かれているのを、3月が終わり忘れていた4月へと季節を移ろうようにカレンダーをめくった時に気づいた

つまり誕生日が後1日で迫ろうとしていた

Qs班員の面々はどうしたものかと首をひねる

気づかないふりをするのは容易だったが、カレンダーには任務などの日程も書かれており、毎回任務を確認するたびにこの1ヶ月は良心の呵責に苛まれることとなるだろう


早速、彼らの誕生日の提案をしたムツキだったが早々に根を上げ始め、他の班員に助言を求めたのだが思いのほか議題の内容が進まない


「先生と麗愛さんは・・・」


初っ端から言葉を詰まらせる

自分から提案を立てることにも不慣れだったが、勢い込んだところで難題にぶち当たる


琲世と麗愛は半喰種だ

一般家庭では育っていないという話を以前してもらったことがある

そのため、そもそもの誕生日という行事すら知らないと思われた

そこで一般的な誕生日の意見を皆で出し合おうとしたのだが、Qs班のメンバーたちの家庭事情が特殊であり、皆が皆誕生日というものにピンと来ていない様子だった


ちなみに、ムツキはご馳走を出したりケーキを食べるというものが真っ先に浮かんだのだが、半喰種は喰種と同様で人間の食べ物が食べられないので、早々に自分の中で却下している

ムツキの却下した提案をシラズが提案してきて、首を振って拒否すればシラズは頭をぐしゃぐしゃと掻きむしった

もともと考えるのが苦手だった性分だったが、叫び声をあげながら隣りのウリエを揺さぶる



「ササッと絵とかなんか描けないのかよ!」

シラズはウリエの脇腹を肘でつついたが、ウリエは嫌そうな顔をする

無表情でシラズを見てからため息をついて攻撃をやり返す


「描くって例えば何を?(面倒くさい)」

「そんなのアレだよ!アレッ!」

「なるほど!アレですな!アレ!ご飯のお供でうまいアレですか」

「そうだ!サイコ!アレだ」


便乗するサイコにシラズも大いに頷くが、どう見ても噛み合っていない

筆をもつフォームからシラズは適当に腕を動かしだし、さらにウリエはやる気が削がれたとばかりに腕組みをする



悩ませている頭が熱をあげることで、だんだん苛立ちを覚え始めた彼らが再び軽い取っ組み合いのケンカになりそうだったので諌める

ムツキの仲裁でようやく落ち着いたが、二人して反対の方にそっぽを向いてしまう

まるで子どもの喧嘩のようだとムツキは苦笑した



「このままじゃ誕生日なんてあっという間だよ・・・」

「あの人たちに詳しい人がい、れ、ば・・・・・あっ」


自分で言った後、シラズは指をパチンと鳴らしニシシと笑った

「そういやあ、俺らが知らねぇことを知っているような奴、一人だけ思い当たる!」


シラズは意味ありげにウリエに目配せをする

それに気づいてかウリエはさらに自分が面倒なことに引っ張りこまれたことに気づいて、深くため息を着く

ムツキとサイコは互いに目を合わせて首をかしげるばかりだった









「喰種が喜ぶもの?」




挨拶がわりにシャッターを撮られ、ウリエの仏頂面とシラズの挑発的な中指が収められた


「何かありますか?堀さん」


『ホリチエ』でいいよと幼さの残る24歳はカメラを片手に頷く

絶対に呼ぶかとシラズとウリエが心の中で同意する


「普通に人肉じゃないの?」

「できれば身近に手に入るものです(そんな考えとっくに考えている)」

「まぁ、頼まれたとおりそれっぽいのは持ってきたよ」


出し惜しみするかのように、茶色の細長い手提げ袋から薄いグリーンの瓶を取り出す

見た目はなんの変哲もないワイン

シラズは乱暴にワインの首の部分を掴むと、自分の目の前に持っていきしげしげと見つめた

ラベルに綴られている文字を見ながらシラズは片眉を吊り上げた


「“片想いの乙女の心臓”?」


甘ったるい本のタイトルのような銘柄だ

聞いたこともない


「あーあー、気にしなでうちのモデルの倉庫からパクったものだから」

「いや、気にするわ!泥棒じゃねぇか!?」

パッとワインを勢いよく離すが、ホリチエは唇を吹きながらカメラのレンズ磨きに専念し始める

ワインセラーからワインを拝借するのなんて、ホリチエにしてみれば可愛いものだ

自分の撮りたいもののためならもっと汚いこともしているが、ここではあえてそんなことは言わずに肩をすくめた


「ワインの一本や二本気にしないって」


ホリチエは肩をすくめながら悪びれた様子がないためか、不思議とシラズも罪悪感を感じなかった

シラズはワインを左右に振れば、動きの鈍い液体が中で揺れている


「そんでこれいくら?」

「1千万」


多額の金額にシラズは目が飛び出さんばかりに驚き、危うく1千万のワインを落とすところだった

ワインを自分の家の家宝かのように胸に抱え直してから、声が枯れそうなぐらい叫んだ


「バッ・・・・!そんな大金あるわけねぇだろうが」


『Fack!』と罵ってからシラズはウリエに押し付けるようにしてワインを渡す

渡されてしまい軽くシラズを睨んだが、ウリエはホリチエの方にそれを返すところだった


「今回はタダでいいよ」


にやっとホリチエは返されたワインを前に押し出して、2人にラベルを向ける

受け取れとばかりにきらりとワインの側面が光る

それは確かに片想いに胸を焦がす乙女の涙のようだった

その光に当てられたシラズの顔は喜びで溢れた

ワインを桐箱へとしまい、縦長の紙袋へと祀りあげるように恭しく入れ、ご機嫌でシャトーへと帰る


しかし、2人は今後思い知ることになる



『タダより高いものはない』と




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