東京喰種 Colos Lie

□番外編:グラスから溢れる愛
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※※※※※※※※※※


シャトーのドアが開き、心配で自室ではなくリビングのソファーで待っていたムツキは玄関へと向かう

歴戦の勇者のような顔でシラズはワインを高く掲げた

一方、ウリエは買い物に付き合わされた夫のようなげっそりとして帰ってくるなり何歳か老けたようにさえ見えた

それをあえてムツキは見ずにシラズの方に目を向けた


「うぇーい!トオルゲットしてきたぜ!」

「ほんと!?こっちはご飯の準備はできた、よ・・・ってそれ何?」

「喰種でも飲めるワインだってよ」


自分がとってきたとばかりに自信満々にシラズはムツキの前にそれを出す


サイコは危うい手つきでワイングラスを持ってくると、その中の1つにウリエはワインを注ぎ込む

片手でワインの底を掴むようにして注ぐ姿は様になっており、腹ぐらいにワインが注がれたところでクイッと半分回す

雫まで綺麗にグラスの中で踊るが、ワインはグラスの淵で色を残したままだった


「何か見た感じドロッとしているけど・・・」


本当にこれは飲めるのかとムツキは鼻をクンッと鳴らす

もったりとした甘い匂いと痺れるような酸味

一口だけでも試しに飲んで見るべきかとワインを傾けるところだった


「あー、こんなところにいた!4人とも」


甲高い声が頭上の方から聞こえ、4人ともそちらを一斉に見上げた

階段を下りてきた麗愛は自分たちを探していたらしく、誕生日の準備もままなっていない4人からしたら麗愛は急な刺客だった

4人で持ってきたワインを背後に隠すが、すでに麗愛の目は欺けてはいなかった



「なぁに・・・それ?」




「そ、それってなんですか?」
「いやはや検討も付きませんなぁ!!!むっちゃん!!!!」


詰め寄られたムツキとサイコの背に冷や汗が落ちる

クイッと顎をあげて怪しげな笑顔を浮かべた麗愛は、2人の肩に片方ずつ手を置く

爪が食い込む手前ぐらい握る



「な・に・か・な?」



観念してオズオズと前に出されたのは先ほど注がれたワイン

グラスの表面が揺れているワインを見つめて、麗愛は眉をひそめた


「未成年なんだからダメだよ、飲酒!」

「いや、俺たちが飲むんじゃなくって・・・・その」


没収と麗愛はムツキの手からワインを没収した

たっぷんと揺れるワインが危うげに麗愛の手中に収まる


「オ、オレたちから!!サッサンと麗愛センパイにって!!」


ボサボサになるのではないかと思うぐらいシラズは照れくささを隠そうと後ろ髪をかく

その言葉に麗愛はイメージのつかなかった自分の誕生日の事を言っているのかと合点がいき、ぱちくりと大きな瞳を瞬かせた


「え、え・・・私たちに?」


麗愛は下唇を噛み締めるが隠しきれずに口角が上がっている


だが、水とコーヒー以外は飲めない喰種


今更ながらQs班の面々が知らないのかと、麗愛は冷や汗を垂らしながらワインをみつめる

人間のお酒が飲めるとは到底思えない・・・

勿体ぶったように麗愛はワイングラスをクルクルと回す動きを止めない


だが、後輩たちの期待の込めた瞳を裏切ることができずに、ワイングラスの淵に口を付けた


まずは唇につけるだけ・・・あくまでも飲まないで・・・

唇が口紅を塗ったように真っ赤に色づく

ごくりとその様子を見守っていれば、麗愛は抵抗もなくぺろりとさらに真っ赤な舌で唇を舐めた


「・・・・・・・・・・・おいしい」


麗愛はワインを驚いたように見た

ぱちくりと4人の顔を見直す


「よっしゃー!!」


ガッツポーズをとるシラズと手を取り合ってはしゃぐムツキとサイコ、ウリエは相変わらず表情を変えてはいないが、自室に戻るようなことはしなかった

今度は一口喉の奥へと液体を流し込む

喉がカッとなり、何とも言えない高揚感と浮遊感に見舞われる


他の4人もグラスを手に取って高々と上にあげる


「ハイセさん帰り遅いからみんなで先に乾杯しちゃおー!」


高いテンションで麗愛は『カンパーイ』とグラスが割れんばかりにぶつけると、騒音に近いグラスの衝撃音に、4人の中で群を抜いて耳の良いシラズは思わず耳をふさぐ

しかし、麗愛はお構いなしに4人全員とグラスを衝突させると、一気にそれを煽る


嬉しそうな笑みが漏れ出し、頬がほんのりと薔薇色に色づく


「これホント美味し!」

「麗愛さん、注ぎますよ」


すでに空いてしまった麗愛のワイングラスをムツキが満たしていく

注ぎ終わると再びグラスを鳴らす

バイキング形式となって並んでいる食べ物を麗愛以外がつまむ

サイコの作ったお好み焼き風の“何か”のバリエーション違いのたこ焼き風の“何か”は不評なのか、誰も手をつけておらず残っている


のほほんと麗愛はワイングラスを一本の花のように両手でもつ

ストンとソファーの上に座り大人しくなった

本日の主役を放ったらかしにするわけにも行かずに、ムツキは顔をあげて首をかしげた


「麗愛さん?どうしました?」

「んー・・・?なあに?」


間延びした口調で麗愛は背の高いムツキを見上げる

口端を伸ばすような笑みは子どもっぽく、瞳は眠そうに目が細められている


「いやあ、楽しいなって・・・」

「それは良かったです」


計画を立ててよかったとムツキが緊張の解けた柔らかな笑みを浮かべて、持っていたグラスを握り締める

眼帯の奥からも嬉しさが溢れ出しそうになるのをグッと我慢した


「むっちゃん・・・」


麗愛はポンポンと隣の空いている場所を手で叩く

デジャヴのような呼び方にムツキはぎこちなく首をかしげながらも言われたとおり座った

麗愛はそれに合わせてグラスをテーブルに置く



「むっちゃん・・・ギュッ」

「麗愛・・・さん?」


腰をひねりムツキの方に熱っぽい視線を向けた

身長も麗愛よりもムツキの方が高いため、麗愛はムツキを上目遣いでみつめ両手を大きく広げる

終いには『カモン!』と言い出してきてムツキは困惑のあまり固まってしまう


「ネェネ!」

「サイコちゃんカモン!」


我先にとムツキの脇を通り過ぎてサイコが麗愛に飛びつく

麗愛の腕の中に収まって満足そうに笑うサイコにムツキはぎゅっと服の裾を握る


ジト目の彼に気付いてかサイコはこれみよがしにぐりぐりと麗愛の腕の中に潜り込んだ

麗愛はもう片方の腕を広げて手招きをした


「ほれ、むっちゃん!おいで」

「恐れることないわよ、むっちゃん!あなたは虎の子!」


元々テンションがあべこべなサイコはわかる

しかし、大人としてやや一線のある麗愛までこの悪乗りにムツキはついていくには難しくてもじもじとしてしまう


「い、いや俺は・・・うわわっ!?」


ムツキが前のめりになりソファーに突っ伏す前に麗愛がその身体を受け止める

女性らしい甘い匂いは洗剤かなにかからかはわからなかったが、ムツキの身体を包み込む

勢いのあまりに突っ込んだせいで眼帯が取れそうになったのを慌てて押さえつつ、自分を裏切ったシラズを左目の隻眼で捉える

愉快そうに笑っているシラズを睨むことは温厚なムツキにはできなかったが、文句は麗愛の肩に顔を埋められてできない


「何言ってっかわかんねーよ」


ケラケラと笑うシラズ

ちょっとは甘えとけと言わんばかりの偉そうな物言いだったが、途端に素っ頓狂な声を上げることとなる

麗愛が遠吠えのように叫んだのだ


「シラギン!!」

「オ、オレ!?」


聞き慣れないあだ名にシラズは恐竜のようなギザギザの歯をぽかんと開く

「シラギン以外誰がいるっていうのさ!」

麗愛は仰ぐようにしてワインのグラスをあけて、顎でテーブルに置かれたワインボトルを指し、注げと偉そうにグラスを前に出してくる

シラズはぎこちない手つきでワインを注ぎ入れる

ムツキの丁寧な入れ方に比べればグラスのふちにまで紅い雫がはね上げてしまってしまい危なっかしい

ようやく注ぎ終わるとシラズは肩の力を抜く


「シラギン、肩揉んで」

「はぁ!?何で俺がそんなこと・・・」


左右にムツキとサイコを抱き寄せている女王様の命令にシラズはギョッと目を瞬かせる

いいからやれと目で睨んでくる

誕生日の主役の特権なら致し方ないと今回ばかりは文句は飲み込んでやることにして、シラズは麗愛の座るソファーの背後に立つ

腕まくりをしてから恐る恐るシラズが麗愛の肩に手を置く


自分よりも熱のある肩

シラズは手汗に気をつけようと、一旦ジーパンで手のひらを拭ってから肩に触れなおす

パンの生地を揉むようにしてグッと指に力を込める

下に押し出すようにしてみれば、こっていない肩が少しだけすくめられて小さい吐息が前から漏れる

麗愛はわずかな痛みとツボを的確に押されない焦れったさを感じながらも、サイコとムツキを撫でる手は止めることはない

サイコの方は膝に乗った猫のようで、膝枕でまどろんでしまって今にも眠ってしまいそうだ

ムツキに至っては身動きひとつしない置物のようだ


「シラスちょっと力込めて」

「シラズな!シラスってなんだよ!ってか全くこってねぇじゃねぇか!」


Yシャツ越しの柔肌を感じつつシラズは叫ぶことでその感触を誤魔化す

指先に力を込めすぎて爪が食い込み始めると、麗愛は僅かに呻く


「シラコ痛い!」

「いよいよ誰だよ・・・」


シラズのマッサージでは不服だったのか、もういいよと麗愛は彼を開放する

痛かったと肩をぐるりと回しながら、余計に肩が凝ったといっているようだ

シラズは唇を尖らせて拗ねる


「ハイセさんがうまいからしょうがないよ〜」

「は?サッサン?」

さらに口に含んだワインが麗愛の口を饒舌にさせる

とろんと目尻を下げて笑う


「うんうん、ハイセさん気持ちいーこと毎日してくれるよ?」


女王様口調はどこにやら、今では舌足らずな子どものように首をかしげる

だが内容が内容だけに、聞いていたムツキとシラズは顔が赤くなる

うふふと麗愛は笑うとソファーから飛び跳ねるように立ち上がった

膝枕してもらっていたサイコに気付かなかったらしく、サイコは『ギャフッ』と潰れたカエルのような声で床に転がった


「あつい〜〜〜」


静かにご飯を食べていたウリエの前に麗愛はフラフラとした足取りで登場する

煩わしそうだったため、食事が終わればすぐに自室に入ろうとしていた計画を覆され、ウリエは迷惑そうに眉をひそめる

だが、そんなことは麗愛にはお構いなしだった



自分のYシャツのボタンに手を掛けようとしたが、煩わしくなったのか、手をクロスさせ服の裾に手をかける

グッとつま先立ちをしながらYシャツを脱ぎさると同時に、結っていた髪がふわりと解放されながら、キャミソール一枚になる

一人ストリップショーを目の前で披露され、クールな表情は若干ではあるが崩れた

麗愛はそれで満足だったのか、ウリエが座っていた椅子の肘掛に手を置いて彼が逃げれないようにする

獲物を見つけた猫のように楽しげな目をしている



「オイオイオイオイ!!やばいんじゃねぇかッ!?誰か麗愛先輩のワイン取り上げろッ!!」



シラズが自ら指揮をとりながらも、麗愛のワインを奪い取ろうとするが、それが容易に叶うことはなかった

酒を飲むと強くなる酔拳の使い手のようにふらりとしつつも、風の前の葉のようにひらりひらりとよけられてしまう

ムツキなども加勢するが、二等捜査官といえどもさすが副指導員

簡単に捕まるはずもなくむしろ翻弄されてしまって体力を減らされ続ける

こんなに激しい動きを繰り広げているというのに、ワインの雫一つもこぼしていない

躍起になって飛びかかるも虚しく彼らの顔面は地面にキスするはめとなる




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