東京喰種 Colos Lie

□3話
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真新しいYシャツをぱりっと着こなすべく、袖を通す

トルソーやオロチにあったら弁償してもらいたい、このYシャツ代を・・・

穴を開けられてしまったYシャツは見る影なく、捨てる羽目となったのだけれど、このYシャツもいつまでもつか・・・


嫌なことを考えながら、大切にボタンを上から一つずつとめていく

外に出るためのコートはまだ着ないため、腕に抱きしめ、ポケットの膨らみに心を躍らえながらリビングへと到着した


「おはようございます」

「おはよう」


ハイセさんは朝から早いようで、既にリビングでコーヒーを片手に新聞を読んでいた

ソファーにゆったりと腰を下ろしながら、視線だけはこちらに送ってくれたので私はそれに答えるようにして斜め前のソファーへと座った

持っていたコートを丸めて抱き枕のように抱える


ソワソワと落ち着きをなくしている私がいると集中できなかったのか、ハイセさんはソファーから立ち上がり、台所の方へといってしまった

私はホッとして深くソファーの背もたれに寄りかかった


あの時のことから、どう接していいかわからなくて、なあなあにしてきてしまって、この状態になっているわけだけど・・・

どこかよそよそしい空気がシラズ君たちにも伝わっているのか、この間から妙に心配させてしまっている

ハイセさんと話さないといけないのかもしれないけれども・・・

何だか私が彼の弱みに漬け込んで、ああなった気がするからどうしたものか


私に抱きついて弱みを見せてくれたハイセさんと、その日の夜のことを思い出して、頬が染まっていくのが自分でもわかる

私が今後について考えていると、後ろから影が



「はい、どうぞ」

「あ、っりがとう、ございます!」


先程は私が落ち着かないからではなく、コーヒーを淹れに行ってくれていたというだけだったようだ

ハイセさんが私にマグカップを差し出してくれて、それをありがたく受け取ることにした


「何で顔赤いの?」

「そんなことは、ないですッ!」



火傷しない適温のコーヒーを口に運んで誤魔化すが、ハイセさんが私の隣へと腰かけてきて、彼の重さ分私の身体が沈む

ソファーは広々と空席が続いているんだから、そんなに距離を詰めなくてもいいのに、わざわざ密着してくるとは・・・

コートを抱え込む力が加わる

ここは平静を装って


「どうしました?」

「少し話があるんだけど」


じっと見られているから、そこから視線を逃がす

期待していた提案ではあったけど、緊張してしまってゴクリと喉を鳴らす

ハイセさんがソファーの背もたれに腕を回してから、私の方へと身体ごと横に向けてきた

視線だけそちらを見たが、違うと言いたげだ



「こっち・・・・・・・向いて?」



お願いする口調なのに、:reの時とは違い、強引に私の手を握ってきた

私なのか彼なのかはわからないけれど、手が震えている


なかなかハイセさんの方を向かない私にしびれをきらしたのか、こちらの頬にハイセさんの手が添えられ、顔ごとそちらへと向かされる

じんわりと頬が熱くなるのはハイセさんの手の温度のせいだろうか

今では少しピリピリと痺れている


「あの――――・・・」
「おはざーっす」


「!!おはようシラズ君」
「!!おはようシラズくん」

階段を滑り落ちそうな様子で降りてきたシラズ君は、目が全く開けていなく、私たちのこの状態を見れていないのは幸いだった

慌てて私は横へと飛び退き、ハイセさんは台所へと向かい、エプロンをまき、『今から朝ごはん作るからね!』とわざわざ宣言をして、フライパンをガチャガチャと動かしている


シラズ君はよろよろとこちらに来ると、ソファーへとうつ伏せになって倒れふしてしまった

本当に心臓に悪い・・・

私はハイセさんが置いていった新聞を見ながら、先ほどの言葉の続きを考える


話って・・・・なんだろう

最近まともには話していない


改まってする話とは何なんだろう・・・・・


私は不安をコーヒーと共に喉へと流し込みながら、ハイセさんが何を言おうとしていたのか、先ほどの会話を頭の中で繰り返すのだった



みんなでかける準備は整った

それじゃあ、出発・・・と行きたいところだけれど、何かを・・・いや、誰かを忘れている気がした

誰だというのは、シラズ君がイライラしている様子からすぐに思い出した

普段任務に参加していないからか、あまり違和感無かったけれども、サイコちゃん寝坊したのね

予想通りの寝坊助ぶりに、苦笑いが浮かぶ



「才子ちゃん遅いね・・・」

「そろそろ出ないとですね・・・」


ハイセさんとムツキ君は不安気に玄関のドアを見つめるが、ドアが開かれることは愚か、階段を降りる音さえもしない

私も腕時計を見てみたけれど、なかなかに余裕がない時間だ


「あのアマぁああ・・・。昨日の澄んだ瞳はなんだったんだよっ」

拳を握りながらシラズ君は目を吊り上げて、苛立った様子を隠すこともせずに近くの壁を蹴る

「遅刻しちゃうし、一旦出ようか・・・」


シラズ君を落ち着けようと、ハイセさんはそう提案した

ハイセさんもサイコちゃんがもともと来れるとは思っていなかったらしく、目を閉じて困ったように笑った

そのハイセさんの笑い方が気になる・・・・・・・一種の癖だと思うけれど、何か誤魔化す時とかはああやって笑うんだよね・・・・


この中の誰よりも冷静そうなウリエ君が、シラズ君に耳打ちをした

「どうする、“班長”?」

「・・・ッ」

『頼りにしている』というニュアンスというよりも、『なんとかしろよ』といった他人任せな言い方だ

それにギリギリと歯を鳴らすシラズ君が、座っている柵から勢いよく前にでた


「・・・サッサン、先に行っててくれ!叩き起してくっから!!」

「えっ、才子ちゃん起きないときは一生起きないよ・・・」

「そんな人間いねえって!」

「あっ、シラズくん・・・!」


ハイセさんが引き止めるものの、シラズ君の靴が玄関で宙に舞い、そのままタイルの上で踊ると、彼の長い脚は階段を3段飛ばしで登っていく

それを確認し、ハイセさんは車のキーを片手で弄びながら、センサーで車の鍵を開けた

ピピッという音で赤いライトが点滅して乗れるという合図がわかった



「・・・仕方ない・・・行こう」


私は助手席に乗り込む

普段ならこの車に乗ると、旅行しに行くようなワクワクとした気分になれるが、今はシラズ君やサイコちゃんがいなく、ちゃんと間に合うのだろうかとソワソワとしてしまう

さり気なくサイコちゃんに電話してみても、変な留守番電話の音源のみで、肝心の本人が出てこないのだから意味がない

何をやっているだろう

そのまま私たちを乗せた車はハイセさんの運転で局へとのろのろと進む

残念なことに、都外に比べて車が行き交う数が多いのにも関わらず、渋滞にあうこともなく、スムーズに局へとついてしまった

これは本格的に遅刻の理由を考えなくてはいけないかもしれない焦りに、みんなが頑張って考えた遅刻の言い訳は残念ながらまとものは浮かばず局の廊下を走る


その間もシラズ君やサイコちゃんから連絡が来ることはなく、局の会議室へと走り込みで入ることとなった

会議室に入るなり、Qs班以外のメンバーはすでに全員揃っているようで、私たち以外の人数の椅子は埋まっている状態だった


「すみません・・・遅くなりました・・・!」

「お待ちしていましたよ」


真っ黒の長い髪とコートといった喪服を思わせる黒が特徴でお出迎えしたくれたのは、鈴屋班の半兵衛さんだった

高身長の彼が身体を2つに折って招き入れてくれた



「佐々木一等捜査官どの・・・上城二等捜査官どの、クインクス班の方々」


半兵衛さんが『お待ちかね・・・』と小さく消え入りそうな声で呟いた

特に遅れてきたことに怒っているわけではないらしい

この調子だと什造さんも遅刻かなと尋ねてみることにした

「お久しぶりです、半兵衛さん」

「お元気そうで何よりです」

「什造さんはどうしたんですか?」

姿が見えないのは、けして半兵衛さんの高身長に気を取られているせいではないだろう

いつも半兵衛さんの横に什造さんが居るというよりかは、什造さんの横に半兵衛さんがいるというのがどうしても半兵衛さんをメインに見てしまいがちになる

しかし、什造さんがいないことは間違いないらしい

私の質問に対して、半兵衛さんはにっこりと微笑んだ


「先輩はお寝坊です・・・成長期ですので。先に始めましょう」


什造さんは遅刻か・・・せっかく久しぶりに会えるのかと思ったのに

彼の言葉を借りるとしたら『残念至極』というのが私の心境だ

ポケットに潜めたお菓子を割らないようにして、並べられたパイプ椅子へと座った


ホワイトボードには既に被害者やナッツクラッカーの身辺調査の内容が張り出されていた

半兵衛さんがその前に座ることで内容が全く見えないと指摘できるはずもない

咳払いして話を続けてくれている半兵衛さんに申し訳なくて、みんな言い出さないのかと思って私も我慢した

ホワイトボードが見れなくても、話している内容はもらっていた資料の内容とほぼ一緒だったため、とりあえず私も黙っていた





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