東京喰種 Colos Lie

□7話:
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盗聴器を発見し、意気揚々と戻ってきたはいいが、盗聴器の分析結果は隣りの部屋の“騒音”のせいで解析はできず、ただの盗聴の証拠として警察に提出されるだけとなった

そのおかげで私とハイセさんのやり取りの聞かれることはなかったのには、安心していいのやらというのが正直な感想だった

クインクス班の功績はそのままで変わりはなく


いらなくなった探知機を持って局内でウロウロと彷徨うこととなった私

ドナートさんの元に向かったり、報告で手がまわらないハイセさんの代わりに返しにきた

これは・・・ハイセさん一体どこの部署から手に入れたのだろうか

すっかり忘れてしまった部署の名前

「えーっと、対策課・・・・・だったかなぁ」


任務失敗ということで意気消沈してしまっている私には、部署を発見できるエネルギーすら残っていない

気疲れからなのかはわからないものの、脱帽しきっているのはたしかで、休憩室にでも行ってしまおうかと思っていた矢先の出来事

方向転換しようと立ち止まったところで、後ろの人の邪魔をしてしまったようだった

進行側に突き飛ばされ、身体が前に投げ出される

「わわっ!?」

フロントに思いっきり身体を叩きつけてしまい、膝を打ちつけた

これは痛い・・・と言うよりも持っていた資料が紙吹雪の如く散らばってしまったのが痛い

相手の人は大丈夫かな?とここで顔をあげる


「すみません、ぼーっとしてて」
「チッ」

え?舌打ち?

私の身体が陰ってしまうほどの巨漢の捜査官が私の後ろに立っていた

どう考えたところで私よりも大丈夫だろう

とりあえず、ぶつかってしまったのはどっちかはともかく謝ったから平気・・・・かな?

私は嫌悪感丸出しの捜査官に向かって再び謝罪を伝えようとした時だ


「失敗作のクセに・・・・・・・・」


「え?」

ドキリと心臓が嫌な音がした

不穏な軋みは相手から放たれている威圧感のせいだろう

彼の明らかに汚らわしいものでも見るような目つきに覚えがある

なるほど、ぶつかったのはどうやらこちらの不注意ではないらしい


「CCGの恥がウロウロと・・・・上は何を考えているんだか。喰種は皆、コクリアで収容すればいいものを」

地の底を這うような低い声で吐き捨てられる

あぁ、この眼は喰種を見るものと同じものだ

やっぱりいつまでも嫌なものだ

ありったけの憎しみを乗せてきた目というものは


彼は私を通して“喰種”を見ているのだ

おそらく自分の大切な人を殺した、自分の命を脅かした喰種の姿を


喰種が混じっている私たちをまだ認めていない人がいるのは揺るぎようがない事実・・・事実だけれども

拳を握り、やけに冷え切った頭を持ち上げた彼を見据えた


「私は喰種捜査官です。勘違いをしないでもらいたい」


身を起こしてこの場を去った方が早い

口で言っても理解してもらえる問題じゃない

これで元から解決できていたら“復讐の螺旋”なんて生まれないのだから


さっさと資料を拾って、何事もなかったように去ろうとしたところで、最後の資料を取ろうとしたところで自分の手元に影が落とされた

それはみるみる濃くなっていく

「喰種なんて・・・ッ、!!」

持ち上げられた彼の足は真っ直ぐ地面についていた私の手へと振り下ろされる

骨が折れてもくっつくけど・・・これはさすがに


「上城二等捜査官」


かけられた声がぴたりと怒りと憎しみで埋まっていった彼の行動を静止させた

私の名前を呼ぶこの無機質で淡々とした抑揚のない声が今では安心できる


「ウリエ君・・・・・・」


イヤホンを外しながらウリエくんが特に興味なさげにこちらへとやってきた

ウリエ君の存在に気づいて怒りが薄れたのか、今では驚いた顔をして固まっている

そして、もうひとりウリエ君の後ろから現れた存在によって、足が完全に地面に着いた


「女性に対してする行いではないと思われます。三等捜査官」


あともうひとり、黒磐くん

いつもはきりりっとした眉を僅かに寄せている

さすがにアカデミー77期のトップが揃ったことに驚いているようで、相手は腰が引けてしまっている

「ッ・・・・・・失礼します」

唇をわなわなと震わせて、一度私の顔を見た後、軽く頭を下げると逃げるようにして去っていってしまった

彼がすでに見えなくなったところで、私は2人を見上げた


「ありがとう、2人とも」

「いえ、転んだ女性に対して手を差し伸べるのは当然のことですので」


あ、さっきの場面を見たわけではなく、黒磐君は転んだ私を助けなかったことを咎めただけらしい

本当は突き飛ばされたとかは言う必要がないから黙っておこう

人を疑わないあたり黒磐君の人当たりの良さが伺える

差し出された黒磐くんの逞しい手に捕まって身体を起こしてもらう

というよりもほとんど引っ張られたようなものだけれども・・・


「以前のことで謝罪に伺おうと思っていたのですが、ご予定がわからずなかなかお伺いできずにすみません」

「以前・・・?あ、あぁ!」

おそらくトルソー追跡中に暴走したハイセさんを静止させたことを行っているのかな?

ずいぶん前のことで忘れてしまっていた

正してある姿勢をさらに真っ直ぐにして、黒磐くんが身体を前に倒す

気を使わないようにとそれをやめさせたが、それでもなかなか彼は折れてはくれない


「私こそありがとう。黒磐くんや平子さん方が来てくれて助かりました」

「いえ、自分は任務をこなしただけですから」

きりりとした眉を一切動かさずにそう言い終わった後、ハイセさんの予定について聞かれた

ウリエ君が嫌そうな顔をしたのはこの際見なかったことにしよう

どうやら黒磐くんがウチに来ることをあまり快く思っていないみたいだ

具体的な日程まではわからないけれども、シャトーに来ればだいたいいるということと、事前に来ることを報告してくれれば、ハイセさんが夕飯を振舞ってくれることを伝えて黒磐くんとはそこで会話を終了した

「ウリエくん、ちょっと探知機の部署のことだけどさー・・・・」

私はウリエ君もついでに連れて、自分の任務が終わらせようとした時だ

すでに彼の後ろ姿が小さくなっていた


そういえば、ギシギシとなっていた歯ぎしりは気づいたら止んでいた


「ちょっ、ウリエ君早ッ!?ま、またね!黒磐くん!!」


関わりたくないと言いたげに、ウリエくんが強めにイヤホンを自分の耳に押し当てているのがバッチリ見えた

あ、聞こえないフリしたぞ、今わかったぞ

声をかけても私の声が耳に入らないとわかったのだから、走るという選択肢のみしかなかった

廊下にほかの局員がいないのをいいことに、駆け足でウリエ君の背中を追いかける

一応、同じ二等捜査官だけども私は副指導者ですからね、ウリエ君!

「ウリエくん!あのねーーー・・・ぶっ!?」

トレーニング内容とか私のさじ加減ひとつだと、大人げない脅しをかけようとしたところで、彼はぴたりと止まり、危うく彼の背中に突撃するところだった

私の危機一髪の回避を褒めることもなく、ウリエ君は普段と変わらずに抑揚なく問いかけてくる

「避けられましたよね?」

「いや、避けれるから途中で止まってもいいだろうとかじゃなくってさ!ちょっとは待っててくれたって罰は当たらないよ!?」

「そうではなく(はあ)」

ものすごく呆れ顔がこちらに振り向く

イヤホンはつけたままだ


「さっきあの三等捜査官に手を踏まれそうになった時です。何で避けなかったんですか?」


何だそっちか

自分の中でツッコミを入れてしまったが、私はどう答えようか迷う

『いやぁ〜、ドジだから全然気付かなかったよお〜アハハハハ』なんて誤魔化しでもしたら、一生口を聞いてくれなさそうだ

目敏いな・・・こういうところでも本当にウリエ君は厄介だ

ここは正直で行こう

すーっとため息を吐く


「あそこで避けたところで余計に相手を煽っちゃうしね」

納得していないのかまだ眉間にシワを寄せている

「それだけで」
「やられたからってやり返したら区切りがつかないし、お互い疲れちゃうだけだよ」

物言いたそうなウリエ君の言葉を遮るようにして、私は鼻で笑う


「まぁ、骨を折られるのは・・・たまったもんじゃないけど・・・一日もすれば治癒できるし・・・捜査官同士で問題を起こす方こそ骨が折れるよ・・・・あ、こりゃうまいこといっちゃったな!」

『骨を骨折と、骨が折れるをかけたんだよ!』っと誇らしげに告げるが、まだ何か言いたげなウリエ君

トドメを刺すように皮肉っぽく『喰種だからね』と付け足せば、私の期待を裏切らずに彼は苦虫を噛み潰したような顔をしてくれた

なんだかんだで、私たちに『喰種のくせに』とか言ったことを引きずっているんじゃないか?これは

ウリエ君も可愛いところがあるじゃないかと勝ち誇ったように笑う


「その件ですが・・・・」


もごもごと口の中で言葉を転がすウリエ君

しかし、言おうとしている言葉が上手く出てこないようだ

ニヤニヤと普段のとはちがうウリエ君を楽しんでいるのがバレたのか、ぶっきらぼうに別の話題をふってきた

あ、可愛くないやつ


「先ほどの、“失敗作”とはどういうことですか?(・・・・・・あの噂のことか?)」

「え?あ、あぁ、聞いてたんだ」


イヤホンで耳栓しているくせに

肝心なことを聞いているとは、なかなか蛇みたいな質だ



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