東京喰種 Colos Lie

□微睡み
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外では曖昧な雲が漂い、もうじきに雨が降るのではないかと思われる

麗愛は気分転換に出かけていた

滲んだ太陽に目を細めながら、麗愛はふわりと欠伸をする

心地よい秋晴れだ

並木道が影となり気温もちょうどいい

のんびりと散歩を楽しみながら、嗅覚が研ぎ澄まされた鼻をくんくんと動かした

甘い柔らかな匂いだ


「そうか金木犀の季節・・・」

どこから香ってくるかはわからないが、金色の小さな花を飾る青々しい葉が連想できる

この道の先にはなかった

嗅覚が鋭いためか、遠くにある匂いを嗅ぎあてたのかもしれない


そろそろシャトーについてしまう

追いかけてくる匂いに心を弾ませながらも、麗愛は別れを告げる

「んんん?」

シャトーの玄関にそっと置かれた花束に目を瞬かせる

淡い黄色の花をつけた麗愛が先ほど想像した通りの花束がなぜかぽつんと玄関に

誰かの届け物なのだろうか?


宛先を見てみれば、上城麗愛

と自分の名が

差出人名は、無し

爆弾など危険物が仕込まれていることも、花束を覆う桃色のラッピングには心配無用らしい

拾い上げながら片手でカバンの中をあさり、家の鍵を探し当てると、それを鍵穴にさして回す

招き入れた香りの良いお客さんを紹介するための住人たちは、まだ麗愛以外は帰っていないらしい

花瓶を探す前に麗愛は自分の部屋にそれを通すことにした

殺風景な部屋にオレンジが添えられただけで、自分の部屋がガラリと華やかになり見違えてくる


「花瓶とってこなきゃ・・・ラッピングを外すのは勿体無いけど」

クリスタルの小柄な花瓶があったはずだ

花束を手に持ったままウロウロとしていれば、その度に匂いが部屋内に充満するが、その度に花が床に溢れてしまう

か弱いが香りは強い

なぜか眠気が襲ってきて、それを振り払うように目をこする

そのまま花束を抱え込むとベッドへと横になった


優しく抱きしめられているかのようで、眠気が心地良く、もう抵抗する必要も感じない

瞼が重くなる

花瓶も、誰から届いたのかもどうでもよくなってしまう

時を刻むようにして花が落ちていき、ベッドに散らばっていく


「みんな早く・・・帰ってこないかな・・・」


ふわりと欠伸をし、息を吐く

年に一度、秋に体感するだけの匂いとは思えないくらい懐かしく、優しいが自己主張のなく、強い香りなのにその存在はあまりにも脆い・・・

すぐ散ってしまう花はその人を連想させる

独りで立つ小さな後ろ姿が麗愛の瞼の裏で見え隠れする

その影を追うようにして眠りに落ちていく


コンコン・・・


もうどのぐらい麗愛は寝ていたのだろうか

控えめなノックで麗愛はすぐに目が覚めた

浅い眠りだったがどこか気怠く、返事が遅れてしまう

「はーい、どうぞ・・・」

「ごめん、寝てた?」

しばらくして、控えめに開かれるドアの隙間から琲世の申し訳なさそうに顔をのぞかせていた

麗愛はゆるく首を横に振る


「平気ですよ」

「そう?コーヒー淹れたんだけど、寝覚めにどう?」

「ありがとうございます」

マグカップを手に琲世がスルリと麗愛の部屋へと入る

くんくんと匂いを嗅ぐ彼に麗愛は今しがた胸に抱いていた花束の存在を思い出す

「金木犀?」

「はい、いい匂いですよね」

「う、ん・・・そうだね」


琲世はベッドの上に腰掛けると麗愛にコーヒーを手渡した

名残惜しげに花束を机の上に置き、金木犀の花束の代わりに麗愛の手には今度はコーヒーの入ったマグカップが陣取った

「部屋掃除が大変だね」

「うわっ、何でこんなに散らかっているんだろう・・・!?」

床やベッドの上にはオレンジ色の花が散漫しており、花束には既に花はなくなっている

花瓶を用意する手間が省けてしまった

「すごい香りだね」

「ですね・・・あー・・・もったいない。匂いなくなっちゃうから、今なら集めてポプリとかにぐらいにはできるかも」

コーヒーをテーブルの上において、ベッドの上の金木犀を手でかき集め始めようとする麗愛を琲世が止め、膝の上に座らせた

見上げてくる彼はまるで大型犬のようで放っておけなくなる

ふわふわと癖のある髪

瞳が潤っており、少しムッとした表情の彼が間近にいて麗愛は息を止めた


「うん、そうかもしれないけど後でいいんじゃないかな?コーヒーが冷めるのも勿体無いよ?」

お互いの腹との距離が徐々に密着していく

止めようとして彼の肩に手を置くが、それももう時間の問題だった

「そ、そうですね、では・・・・、んんっ、」

コーヒーの代わりに『いただきます』という言葉を飲まされる

彼が何をそんなにムキになっているかは麗愛にもわからないが、金木犀の香りをかき消さるほど強引に唇を合わせてくる

理不尽にぶつけられた唇に麗愛はなすすべもなく答えることしかできなかった

先ほど一口だけ飲んだのだろう苦味のある琲世の舌が麗愛の舌と絡みつく

「んっ、・・・っ、ハイ、セ・・・さん」

すっかり身体から力が抜け、麗愛は肩で息をしながら琲世の胸にもたれかかる

彼の手が背を撫でてきて、背筋がゾクゾクと粟立つ


今ではコーヒーの香りで胸がいっぱいとなる

そのままゆっくりと背がシーツの海に沈められた

先程まで瑞々しかった金木犀の花が寂しげに乾いていくのを横目で見届けた


2015*10*04

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