わたしの創作牧場

□今度こそ君へ
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 渡された着物は、とても極彩色の色をしていた。

「どうしたの、これ?」
「いや、お前にやろうと思って持ってきた」

 突然の贈り物に桜は驚きを隠せない。縁側に座っている目の前の男はは幼馴染の佐門で、私の父が営む寺子屋に通っていた人物である。
 長いこと兄弟の様に育ってきた私たちであるが、ある日私の中で男への恋心が生まれたことを男は知らない。私自身も言うつもりはない。
 何故なら佐門は、この辺りでは有名な商家の息子で女たちが憧れるほどの美男であるからだ。しかも当人はそれをいいことに、無類の遊び人として女たちと遊んでいる。
 こんな地味で平凡で妹みたいにしか思われてこなかった自分を、見てくれるわけがないのだ。

「でももらう理由もないし」
「いいからやるって言ってるんだからおとなしく受け取っとけ」

 いつだって強引なところは相変わらずだが、矢張りどうにも引っかかる。長い付き合いだが、こんな高価な着物をタダでくれるとは思えない。何か裏があるのではと思わずにはいられない。
 
 じっと佐門を見つめると、どことなく不機嫌な様子である。肘をついて遠くを眺めつつも、何か考えいらだっていると感じた。
「ねえ、何かあったの?」
 桜の言葉に、佐門の体が反応し、こちらを見る。やはり何かあったのか。
「ま、言いたくないならいいけど」
 桜はいつもどおりを装いつつ、自然と話す流れに持っていく。無理に聞き出そうとしても佐門はいつだって意地になって話そうとしない。だから聞き出すにはコツが必要なことは長年の経験から知っているのだ。

 佐門はしばらく考えてから、桜のほうを向いて話し始めた。
「実は一昨日、籠屋の沖風と喧嘩しちまってよ」
 沖風とは確か今佐門がひいきにしている女郎の名前だったはずだ。
「なんで喧嘩なんかしたのよ」
「だってあいつせっかく俺が来たっていうのに、他の客の相手してるんだぜ。俺のほうが格上なのに」
 あほらしいと思うが、それは口に出さない。この男の機嫌の悪さを悪化させるだけだ。
 
 不機嫌の理由を知って、今自分の手元にある着物に目をやる。
「それじゃあ、この着物沖風さんにあげるつもりだったの?」
「まあな。だけどあいつと喧嘩した後に出来上がったんだが、なんとなくあいつに渡すのが癪になってな。そんな時お前のことを思い出してちょうどいいと思ったんだ」

 佐門の心のない言葉に桜は涙が出そうなくらい悲しかった。
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