わたしの創作牧場

□春の眠り
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 長い冬が終わり、ようやく春がやってきた。桜が満開に咲き誇り、風に舞う姿は私の視界を遮るほどであった。
もう何度、この桜を見に来ていることであろう。諸国を旅している私が、春の訪れとともに必ずこの桜を見に来てしまう。
 美しく咲く桜を眺めながら、かつての日々を思い出す。幼い頃の自分。役職に就き、友と共に仕事に追われる日々。そしてあの人との淡い思い出……。すべてはこの桜のように花開き、散っていってしまった。
 あの日から私はすべてを捨てて、旅に出た。家族も、友も何もかも捨て一人諸国を巡る旅に出た。私の突然の行動に周囲はみな驚き、戸惑っていた。しかし私は旅に出た。ただすべてを忘れたくて。今までの自分を、そしてあの人のことも。
この満開に咲く桜は、私にあの人を思い出させ、私をあの日々へと呼びもどす。
あの人、私の心の奥深くに眠る淡い思い出。叶うことのなかった恋。それでもあの人への思いは、年を経てもなお色褪せることなく私の心に在り続けている。
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