わたしの創作牧場
□勝手にあきらめさせるな
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教室に忘れ物があったことを思い出した徹は、教室に取りに戻るとまだ女子たちが残って騒いでいた。
何か知らないがものすごく盛り上がっているようで、あまり女子たちの騒がしいところが苦手な徹は中に入ろうか考える。
(特にそれほど必要なわけじゃないし、今日はおいていくか)
そう思い、帰ろうと踵を返そうとしたら、ある人物の声が耳に入ってきた。
「そっか、みんな男子にチョコあげるんだ」
徹の隣の席の薫だった。なんとなく歩き出そうとした歩みを止め、その声に耳を立てる。
「そりゃもちろん。女の子の一大イベントだからね」
「お菓子会社の陰謀だろうとなんだろうと、やっぱり重要な日だよね」
「手作りがいいかな? それとも買ったやつがいいかな?」
どうやら女子たちはバレンタインについて話しているようだった。そういえば来週はもうバレンタインだっけ。
徹はその日は男女ともに目の色が変わって怖い日なのであまり好きではない。
徹自身は毎年結構な数をもらえるため、こう言うと友人たちに怒られるのだが…。
「薫も渡すんでしょ?」
女子の一人の言葉に徹は反応した。
あいつも渡す相手がいるのか?
「渡すって、誰に?」
「そりゃ、もちろん。徹君に」
その言葉に徹の思考が一瞬停止した。そして次に何を持ってそいつは薫が俺に渡すと思っているんだと静かに突っ込みを入れた。
俺と薫は席が隣同士故、それなりに仲がいいほうで、俺も女子の中では薫とはよく会話をする。だがそれだけだ。俺もあいつもただのクラスメートとしか思っていないはずだ。それなのに。そもそも少し男勝りであまり美人とは言えない奴をそう思うほうがおかしい。
そんなことを考えながら薫の言葉を待った。だが薫から発せられた言葉に徹はまたもや衝撃を受けることとなる。
「え、なんで? あげないわよ」
薫の言葉に納得しながらも、なぜか胸の奥がちくりと傷んだ気がした。
「えー、だって二人よく仲良く話したりしてるじゃん。徹君ってあんまり女子には優しくないのに薫と話すときは楽しそうだし」
「そうそう、だから二人付き合ってるんじゃないかなって」
「付き合ってない。付き合ってない。まったくどっからそんなデマが」
「でも、好きなんじゃないの?」
ドア一枚隔てているので、その言葉を聞いた時の薫の表情がどんなものかわからないが、一瞬間をおいて薫は笑い出した。
「何言ってんの。あいつをそういう対象で見たことなんて一度もないわよ。それに私にはちゃんと好きな人というか、付き合っている人が別にいるし」
「えー!」